巨人老川オーナー、試合前ズレてる訓示の内容とは

ベンチであごに手を置き考え込む巨人高橋監督(左)(撮影・横山健太)

<日本生命セ・パ交流戦:西武3-0巨人>◇7日◇メットライフドーム

 巨人が、80年を超える栄光の歴史の中で「史上最弱」となる12連敗を喫した。なぜ栄華を誇った名門は、大失速が止まらないのか-。現場の空気を感じる日刊スポーツ巨人担当キャップ広重竜太郎記者が、屈辱的連敗の背景を記した。

 屈辱の記録は力のなさがすべてだ。そこには一切の言い訳も介在しない。首脳陣、選手が招いた結果だ。一方で、誰も経験したことのない苦境に立たされている中で看過できない事実もある。現場にしらけた空気が流れ、それを醸し出しているのが、他ならぬ球団首脳であることだ。

 老川祥一オーナーは昨年の就任から何度も試合に足を運んできた。熱心なのだろう。全体練習を終えた試合前に何度もチームに訓示を行ってきた。だが試合前、にだ。戦いに向け、首脳陣と選手が智略を張り巡らせ、心を整える時間、にだ。

 今回の連敗時の最中も、大事な時間を現場から奪った。2日の本拠地東京ドームでのオリックス戦前。高橋監督との個別での会談はチームのミーティングに差しかかろうとして、関係者が指揮官を呼びにくるほどだった。

 老川オーナーがチームを集めさせて行った訓示も、内容を伝え聞くと、違和感を覚えた。鼓舞するならいい。叱咤(しった)するなら、まだいい。だが低迷する視聴率やチケット売り上げの問題などを混在させながら勝利を強い口調で求めたという。

 トップとしては伝えたい実情だったのかもしれない。ファンあってのプロ野球。人気回復も大きな使命だろう。だが活路を求めて戦っている現場が試合へと飛び出す直前に聞いても、魂は揺さぶられない。私はタイミングの外れた訓示を、疑問に思う。

 11連敗を喫した前日の試合後は報道陣の前で「ファンに申し訳ない」と話した。トップとして、その言葉で十分なのではないか。視聴率やチケット売り上げの現状などチームに伝えなくても、チームは球場に足を運ぶファンの嘆きと不満を一身に受けている。

 名門の歴代オーナーは力や発信力を備える。元オーナーの渡辺恒雄・現読売新聞グループ本社代表取締役主筆を含め、公の場で強いメッセージを発してきた。だが試合前の聖域ともいえる時間に割って入ってきたのは聞いたことがない。

 迷走は続いている。打てる手段も限られてきた。士気の高揚は残された数少ない武器だ。永遠に負け続けることは現実的にはない。だが1勝しても今、起きている事象を見過ごしては何も変わらない。互いを尊重し、一体となって戦わなければ巨人軍に未来はない。【広重竜太郎】