巨人が山口処分書面公表!選手会の独禁法違反に反論

謝罪会見をする巨人山口俊(右)と石井球団社長(2017年8月18日撮影)

 巨人は4日、都内で行われた日本プロ野球実行委員会で、山口俊投手(30)に対する処分が適切であった旨を熊崎コミッショナー宛ての文書で提出した。

 8月25日に選手会から処分の再検討を求める文書が発表されたことを受け、この日の委員会で「日本プロ野球選手会の要請に関する説明」と題した、5ページの文書を提出した。

 巨人が公表した書面に記載された内容は以下の通り(原文のまま)。

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 日本プロ野球選手会の要請に関する説明

 労働組合日本プロ野球選手会(嶋基宏会長)が日本プロフェッショナル野球組織(NPB)の熊崎勝彦コミッショナーと実行委員会に対し、8月25日付で提出した文書「読売巨人軍による山口俊選手への処分等に関する要請」は、読売巨人軍と選手会との協議の経緯等について、事実を歪曲または割愛し、読む人を誤導する事実解釈がなされています。

 選手会の主張は、(1)山口投手への処分が重過ぎる(2)山口投手の意に沿わない契約見直しが行われ、独占禁止法違反(優越的地位の濫用)の疑いがある(3)山口投手の契約見直しはFA制度の根幹にかかわる--の3点に整理できます。

 これに対し、巨人軍では、(1)処分内容は妥当。むしろ「軽過ぎる」との声が多く寄せられている(2)契約見直し等は山口投手も納得の上で行われており、日本プロフェッショナル野球協約や一般法令に反する点は一切ない(3)山口投手の契約見直しは不祥事の結果として行われており、FA制度一般に影響を与えるものではない--と考えています。

 すなわち、今回の選手会の主張は、確たる根拠もなく、球団と選手との私的な契約に不当に介入するものにほかなりません。

 以下、その詳細について説明申し上げます。

 【1】出場停止、罰金、減俸の処分について

 「日本国民の模範たるべく努力することを誓約」(統一契約書第17条)したプロ野球選手が、本来、平穏であるべき真夜中の病院内で、酒に酔って警備員に全治2週間のケガをさせるなどのトラブルを起こすという「不品行」(野球協約第60条)を行ったことは、一般常識に照らしても断じて許されざる行為であり、当球団に寄せられたファンの声の大半も厳罰を求めるものでした。

 山口投手は7月11日未明に起こしたトラブルを一切、当球団に報告しませんでした。球団が病院に問い合わせてトラブルが傷害、器物損壊容疑事件であることを把握したのは7月18日になってからで、トラブルからすでに1週間が過ぎており、病院側や警備員の方の被害感情はきわめて強くなっていました。山口投手はこの日、ナゴヤドームでの中日戦の予告先発だったため、当球団は急きょ、山口投手の登板を回避。中日球団、セ・リーグ、NPB関係者らに多大な迷惑をかけました。球団の対応がなければ、刑事事件を起こした選手が何らけじめをつけないままグラウンドに上がる事態が出来するところでした。

 山口投手と警備員や病院との示談が成立したのは8月に入ってからです。被害届が取り下げられ、結果的に不起訴となりましたが、もし球団が山口投手のトラブルを把握するのがもっと遅れていたら、示談交渉はより難航し、形而上の処分はより厳しいものになっていたはずです。選手会の「対象選手の行った行為は、刑事事件として逮捕事案でもなく、既に被害者との示談も成立している事案です」との認識は甘すぎると言わざるをえません。

 過去の処分事例として、1980年に当時の近鉄の選手が暴力事件で1年間の出場停止と10%の減俸処分を受けた例、同年にロッテの選手が暴力事件で1か月の謹慎と3か月の減俸処分を受けた例、1998年に巨人の選手が主審にボールを投げつけ、8月からシーズン終了までの出場停止と4000万円の減俸処分を受けた例などを参考にし、総合的に考慮した結果、山口投手に対しては、

 ・8月18日から今シーズン終了まで(参稼期間最終日の11月30日まで)の出場停止

 ・事案の起きた7月11日から出場停止期間前日の8月17日までの間、1日につき参稼報酬の300分の1に相当する金額の罰金

 ・出場停止期間中の参稼報酬について、1日につき参稼報酬の300分の1に相当する金額の減額

 が相当であると判断しました。

 なお、当球団は2015年に発覚した所属選手による野球賭博事件の反省から、球団内に紀律委員会を設けるなど紀律徹底に向けた取り組みを進めていたところであり、山口投手の行為は球団への信頼をも著しく失墜させました。

 さらに、山口投手はFA権を行使して当球団に移籍した、先発ローテーションの一角を狙う大物投手として、広く野球ファンに名が知れ渡っており、山口投手の言動が青少年に与える影響力は大きく、今回の行為に対する責任はきわめて重いと言えます。

 選手会の「このような事案でのプロ野球界の前例、その他社会における懲戒処分実務に照らし、対象選手に対する総額1億円以上の金銭的ペナルティは明らかに重すぎる不当なものです」との認識は、多くの国民の受け止めとはかけ離れたものと言わざるを得ません。

 【2】契約の見直しについて

 当球団はトラブル発覚当初、山口投手に対し、上記の判断から契約解除もやむなしとの考えを伝え、複数年契約を見直して来期以降の契約を解除し自主退団する方向で話し合いが進められました。

 ところが、途中から選手会の森忠仁事務局長と松本泰介弁護士の2人が、山口投手の交渉窓口として球団との協議に登場しました。

 選手会は、山口投手のトラブルと予告先発回避の記事が出た7月19日以降、山口投手と連絡を取って、被害者との示談の推移や球団との交渉経緯についてヒアリングを続けていたといいます。一方で、選手会は山口投手に対し「自主退団は厳し過ぎる」「他の選手にも影響が出る」などと迫ったため、山口投手は「自分では判断できない」として、選手会に話し合いを委ねることにしました。

 山口投手の契約をめぐる話し合いは本来、山口投手と球団で行うべきものですが、こうした経緯があったため、球団は選手会との話し合いに入りました。

 8月2日から始まった選手会との協議では、自主退団を前提にした話し合いが行われました。しかし、その後、球団内部で山口投手に対する処分等を検討する中で、トラブルが表面化して以降、山口投手が断酒を続けるなど猛省していること、自宅謹慎を守りながらトレーニングマシーンを購入して熱心に体力維持を心掛けていること、山口投手が巨人軍を退団した後もNPBチームでの選手活動が確約されているわけではないこと、海外での選手活動も大きな困難が伴うことなどを考慮した結果、「30歳という若き才能ある選手にもう一度チャンスを与えてもいいのではないか」「プロの野球選手として、犯してしまった過ちは今後のプレーで償わせてはどうか」などの声が上がり、来季も巨人軍で選手活動を続けてもらうという選択肢も考えることにしました。

 8月5日の選手会との協議の途中、松本弁護士から「山口投手はジャイアンツに戻りたいと本音では思っている」「球団に対し、ジャイアンツに戻りたいと言っていいかどうかわからなかったそうだ」との発言がありました。

 この発言を受け、当球団の石井一夫社長から「山口投手にあと1年チャンスを与えるという考えもある。年俸は変えない」と新たな契約見直し案を提示したところ、松本弁護士は「ありがたい。ジャイアンツでプレーするという希望は99%受け入れられないと思っていた。今日聞いた話をきちんと本人に伝え、早急に返答したい」などと回答。山口投手、球団、選手会がいずれも納得できる新たな契約見直し案を進めていくことになりました。

 【3】選手会の態度の急変

 上記のように、山口選手の交渉窓口として当球団と協議を続け、新たな契約見直し案を進めるために動き出した選手会ですが、8月5日の協議後、態度を急変させました。

 同日夜、松本弁護士は球団側に「契約見直しは認められない」などと唐突に電話で伝えてきました。

 8月9日に行われた協議には、森事務局長と松本弁護士は、これまでの山口投手の交渉窓口としてではなく、選手会を代表する立場で臨んできました。冒頭、森事務局長は「山口投手は、引き統きジャイアンツでプレーできることにとても感謝している」と、山口投手が契約見直しに納得していることを球団に伝えたうえで、「(本日は)選手会としてお話ししたい」と切り出しました。

 松本弁護士は、選手会の会長や役員と話し合ったうえでの見解として、山口投手が処分を受けるのは当然だが、球団が提示した契約見直し案は、山口投手が今シーズン前半、故障のため出場できなかったこと、試合に出場しても大きな成果を上げられていなかったことなどを勘案してのことではないかと疑っている旨を伝えてきました。そのうえで、8月5日の協議結果を一転させ、選手会として、契約見直しは一切認められないとの立場を固持するようになりました。

 当球団は「選手会の意向はわかった」と理解を示したうえで、選手会が山口投手の交渉窓口でなくなった以上、契約見直しについては、契約当事者である山口投手と直接話し合いたいと要請しました。ところが、選手会側は、球団と山口投手との直接の話し合いの要請に対し、強い難色を示しました。このため当球団は、山口投手との契約見直しに関する協議で選手会を当事者とすることはできないと判断し、山口投手との話し合いに切り替えました。

 選手会は、山口投手の交渉窓口として協議を続けてきたにもかかわらず、山口投手と選手会との意見が相反するようになると、突然、選手会の代表の立場にすり変わり、引き続き球団と協議を続けようとしたのであり、当球団はとまどいを禁じえませんでした。

 以上が、当球団と選手会との間で行われた協議の概要であり、選手会のいう「複数年契約の見直しを迫り、これに同意しなければ契約解除(解雇)するとの条件を提示し続けることにより同意させました」「契約見直しを飲めないのであれば対象選手を解雇する、裁判で争われても構わない、との主張を繰り返し続け、最後には、契約見直しを飲めないのであれば話していても意味がない、と一方的に当会との折衝を打ち切り、社長自ら席を立ってしまう」との指摘は、事実の歪曲以外の何ものでもありません。

 選手会との最後の協議を終えた日の翌10日、球団は山口投手と直接面談しました。山口投手は、「選手会から、今回の契約見直しは、僕個人の問題であると同時に球界全体にかかわる問題だと言われている」などと、選手会との間で板挟みになっている状況を伝えながらも、「巨人でまたプレーさせてもらえる機会を与えてもらえたので、しっかり腹をくくって、もう一度自分自身を見つめ直して、巨人のために一生懸命頑張りたい」と決意を表明。当球団は、山口投手の契約見直しについての意思確認ができたとして、8月17日に正式に契約見直しを行い、翌18日に記者会見して処分を発表しました。

 言うまでもなく、契約見直しは山口投手と当球団との話し合いにより双方合意の上で行われており、独占禁止法上の優越的地位の濫用に該当しないのは明らかです。選手会側文書には「巨人軍が、本件を奇貨として不当な解雇を突きつけることで、金銭的な負担を軽くする意図があったのではないかと邪推せざるを得ません」との表記がありますが、これまでの説明の通り、球団側には、山口投手に対する処分や契約見直しについて、「金銭的な負担を軽くする意図」などというものは毛頭なく、文字通り事実に反した邪推にほかなりません。

 【4】NPBへの要請等について

 選手会は8月25日付でNPBの熊崎コミッショナーと実行委員会宛てに「要請」文書を、当球団の石井社長宛てに「抗議」文書を、それぞれ送達しました。28日には報道各社に「読売巨人軍による山口俊選手への処分等に関して」と題する文書を公表しました。

 選手会は実行委員会への「要請」文書や報道各社に宛てた文書の中で「(巨人軍と)当会との折衝」「当会としても(処分や契約見直しの)その過程で対象選手から事情を聴取し、巨人軍と交渉を行うなどして」などと、ことさら山口投手の交渉窓口だったことを強調し、その状態が続いているかのように読む人を誤導させ、あたかも山口投手の意向を受けた「要請」文書であるかのような記述をしています。

 選手会が各種文書の中で、山口投手の交渉窓口と選手会の立場を混同させた表記を行うなどしたため、一部メディアに、選手会の一連の行動は処分や契約見直しに納得できなかった山口投手の周辺から選手会に訴え出たものかもしれない旨の記事が掲載されました。言うまでもなく、そのような事実は一切なく、選手会が独自の判断で行った行為です。山口投手も「選手会が今回、抗議を出すことは知りませんでした。私自身が処分や契約見直しを不満に思い、抗議しているように誤った理解が広まってしまっているのなら、それは事実と異なるので大変残念に思います」と話しています。

 【5】結論

 選手会は処分も契約見直しも不当だと主張し、コミッショナーと実行委員会に対し、適切な調査、裁定、指導その他の合理的な対応、及び、選手会ヘの報告を要請しています。

 処分については、上記説明した通り、選手会が主張するような「明らかに重すぎる不当なもの」ではなく、当球団では「処分は妥当」であると考えています。むしろ、8月18日に当球団が処分を発表した後に球団に寄せられたファンの声は、大半が「処分は軽いのではないか」などというものでした。また、選手会が山口投手ヘの処分は重過ぎるとして球団ヘの抗議やコミッショナー、実行委員会ヘの要請を行った後も、再びファンからは「処分としては軽いくらい」などの意見が多数寄せられました。

 一方、契約見直しについては、本来、契約自由の原則があり、野球協約およびこれに附随する諸規程に違反する事実や、一般法令に違反する事実等がなければ、コミッショナーの調査や実行委員会の審議の対象にはなりません。山口投手との契約見直しにおいて、協約に違反する事実、諸規程に違反する事実はありません。選手会のいう独占禁止法に違反する事実もありません。

 また、本件の契約見直しは、統一契約書そのものの見直しではなく、「覚書」に記載された内容を見直したものです。覚書は、あくまで球団と選手との間の個別で私的な取り決めに関するものです。統一契約書の制度や条項に関する事項について疑義があるなどのケースとは異なり、コミッショナーが調査したり、実行委員会が審議したりするような案件ではないと考えます。なお、当球団は覚書に関する情報は一切開示しておらず、今後も開示する予定はありません。

 選手会は「本件のような事案で契約の見直しが許されるとすれば、長期の拘束を前提とする保留制度に裏打ちされたFA制度の根幹に関わる間題」と主張しています。しかしながら、本件は山口投手が不祥事を起こしたことで行われた契約見直しであり、不祥事等を起こしていない選手に対し、球団側の自己都合や恣意的な判断で契約を見直すようなケースとは異なります。

 以上