東京金へスモール+パワー+機動力、国際大会は別物

日の丸を掲げる侍ジャパン稲葉監督(撮影・山崎安昭)

 稲葉監督が伝えるイチ流の思考-。侍ジャパンの新監督に就任した稲葉篤紀監督(45)の初陣となる「ENEOS アジアプロ野球チャンピオンシップ2017」が16日から19日まで東京ドームで開催される。20年東京五輪の金メダル獲得を目指し、24歳以下または入団3年目以内にオーバーエージ枠3人を加えたヤング侍が、韓国、台湾代表と対戦。日刊スポーツでは今日7日から「初陣!! 稲葉JAPAN」と題して、選手や対戦国にスポットを当てた10回連載を掲載します。第1回は稲葉監督に大会への思いを聞いた。【取材・構成=前田祐輔】

 稲葉監督は現役時代、20年間で通算2167安打をマークした。2度のWBC、08年の北京五輪に出場し、豊富な国際経験を積んできた。監督経験がない中で、目指す野球とは。

 稲葉監督(以下稲葉) 基本的には投手を中心とした守り勝つ野球。現役の時から自分自身がやってきて、指導者になった時もそういう野球をやりたいなとずっと思ってました。ですけど、国際大会は国内のリーグとは別物。初対戦の国、初対戦のピッチャーから点を取らないと勝てない。どうやったら点が取れるかも、しっかり考えたいと思います。

 侍ジャパンが直面した壁。3月のワールド・ベースボール・クラシック(WBC)は準決勝で米国に1-2で敗れた。打者の手元で微妙に変化する外国人特有の「動く」パワーボールに苦しみ、点差以上の力量差に屈した試合だった。稲葉監督は打撃コーチとして敗戦を見つめた。世界一に返り咲くために、日本代表に足らないものは何か。

 稲葉 これは難しいんですが、パワー。スモールベースボールも大事なんですが、プラス、パワーが今後大事になってくると思います。アメリカの選手と日本の選手のパワーに違いはありますけど、近づいていかないと、あの強くて動くボールを打つには、なかなか技術だけでは対応できない。

 WBCで2度世界一に輝いた日本が得意とする小技や足を絡めたスモールベースボール。それだけでは世界一への道のりは険しい。

 稲葉 日本のボールであそこまで動かして、パワーボールを投げるピッチャーはなかなかいない。こういう国際大会で経験して対応していくしかないんです。伝えようとしても、自分が感じないとなかなか伝えていけないもの。これだけ動くんだよって言っても、自分が打席に立って感じないと分からない。経験を積むしかないと思います。

 監督就任時には、同じ愛知県出身で親交が深い1歳下のイチロー(マーリンズ)から「何でも相談に乗ります」と声を掛けられた。

 稲葉 実は外国人特有の動くボールに対してどうやって対応すればいいのか、相談しました。

 イチローの答えとは。

 稲葉 動くボールというのは経験しないと、なかなか伝えられるものじゃない。だけど外国人ピッチャーが一番嫌がるのは自分のウイニングショット、一番自分の力があるボールを打たれることが嫌だと。そういう話はしてました。

 相手の決め球を狙え。それがイチロー流の国際試合の戦い方だった。

 稲葉 そこを打たれるとカッカしてきて、自分を見失うという話をしていて。なるほどなって。

 今大会はアジアNO・1を目指す若手主体の大会。イチローから聞いた話、自身の経験は惜しみなく伝えていく。ただ強制はしないのも稲葉監督流だ。

 稲葉 イチロー選手はこういうことを言っていたと、それも参考にしてもらえたらいいかなと。この投手の特徴は何か。シンカーだったら、じゃあシンカーを打ってみようと思う選手も中にはいると思う。シンカーが打てないんだったら、捨てて別のボールを打とうという選手もいるでしょう。参考にしてくれればいいのかなと思います。

 「スモールベースボール+パワー」を理想に掲げて挑む東京五輪への道。今大会は西武源田、中日京田の新人コンビに楽天オコエらスピードあふれる選手を選出した。「僕自身の色は出していきたい」と話す、稲葉監督の「色」とは。

 稲葉 機動力ですね。今回のU24の世代は走れる選手が多い。ホームランバッターというより足を使える選手が多い。機動力は使っていきたいと思います。

 オーバーエージ枠で中日又吉、西武山川、ソフトバンク甲斐を招集した。先発候補には巨人田口、広島薮田、DeNA今永、西武多和田を挙げる。4番は。

 稲葉 山川選手でいこうと思ってます。西武でも4番を打ってますから。

 抑えを任せる投手は。

 稲葉 (五輪へ向け)守護神を育てていかないといけないという意味で(DeNA)山崎選手にやってほしい思いはあります。又吉選手もいますし、2人のどちらかになると思います。

 同じ遊撃手の源田と京田のどちらかを二塁に回し、併用する考えは現状ない。

 稲葉 2人をどう使っていくかは非常に迷うところ。やったことがないポジションを守ることは、選手にとっては不安でしかない。今回はちょっと厳しいかなと。バッティングに影響してきますので、あまりさせない方がいいのかなとは思ってます。

 クリーンアップにつなぐ1、2番を重視しながら、打順、守備位置などは「彼らがどのポジション、どの打順で生きるのか。しっかりと考えたい」と言う。選手を見極めるポイントは。

 稲葉 国際大会の中で、初球からアジャストしていけるか、1打席目1球目から自分のタイミングで、しっかりと自分のスイングができるか。源田選手も京田選手もどんどん振っていくタイプなので、1番や2番を打った時に、ボールを1球でも多く見ないといけないとかは思わなくていい。これまで1年間やってきたことをやってほしいです。

 7月の就任時には、監督経験がない不安を漏らしていたが、覚悟は決めている。

 稲葉 不安というよりも、采配の部分で選手に迷惑を掛けてはだめだなと。やるのは選手ですけど、ちゃんと勝つ方向に向けていくのは監督の仕事だと思います。しっかりと僕も準備をしていかないといけない。

 侍ジャパンは明日8日に集合し、13日まで宮崎で強化合宿を行う。20年東京五輪に向けた長く厳しい道のりが幕を開ける。