稀勢の里が緊急搬送 きょう出場は親方「相談して」

日馬富士に寄り倒しで敗れ土俵下に転落した稀勢の里は、左胸付近を押さえ苦痛に顔をゆがめる(撮影・岡本肇)

<大相撲春場所>◇13日目◇24日◇エディオンアリーナ大阪

 ただ1人勝ちっ放しだった新横綱稀勢の里(30=田子ノ浦)に、まさかの悪夢が襲いかかった。初めての横綱対決で日馬富士に寄り倒されて、初日からの連勝が12で、初場所10日目からの連勝が18で止まった。その際に左肩から胸付近を負傷し、救急車で大阪市内の病院へ直行した。新横綱優勝の可能性が一転、出場すら危ぶまれる事態に陥った。師匠の田子ノ浦親方(元前頭隆の鶴)は14日目の出場について「明日、相談して決めたい」と話すにとどめた。

 痛がるそぶりをめったに見せない男が、何度もうめき声を上げた。そのことが異常事態を物語っていた。

 稀勢の里は左腕を動かせなかった。右手は左胸にあてる。痛みをこらえ、歩いて中に入った支度部屋で気を抜いた瞬間に「ウゥーッ!!」「アァッ!!」と表情をゆがめた。「フー、フー」と呼吸も荒い。親方衆も駆けつけるほど緊迫した空気。全勝街道を走っていた新横綱が、悪夢に襲われた。

 同格の地位に立って初めて迎えた日馬富士との横綱戦。左足から踏み込み、おっつけた左手が、空を切った。八角理事長(元横綱北勝海)も藤島審判長(元大関武双山)も、負傷したのは「立ち合いで左がすっぽ抜けたときではないか」(同審判長)と推察した。

 上体を起こされ、もろ差しを許すと、下がりながら左から振る。その直後から顔がゆがんだ。寄り倒されて、転げ落ちて土俵下に打ちつけたのも左肩から。すぐに左胸を押さえ、土俵に戻ることもできなかった。

 12連勝で止まった以上に大きな代償。支度部屋で応急的に触診した医師の「音がしたか」の問いにうなずき「動かない。動かすと痛みがあって怖い」と漏らした。医師は「外れている感じでも、骨が折れている感じでもない。『外れた』とも『切れた』とも言っていなかった」と説明した。肩か、それとも大胸筋か。新横綱は三角巾で患部を固定し、氷で冷却。午後6時19分に救急車に乗り込んだ。問いかけにも無言だった。

 大阪市内の搬送先の病院に駆けつけた師匠の田子ノ浦親方(元前頭隆の鶴)は負傷箇所について「テレビで見たようなところ」と左肩から胸付近を指して「まだ場所があるので」と詳細は明かさなかった。鶴竜と対戦する14日目の出場についても「今日は様子を見る。明日、相談して決めたい」と話すにとどめた。

 単独トップで新横綱優勝も見えてきた矢先。朝には先代師匠の隆の里だけが成し得た新横綱全勝優勝に向けて「1日1日、しっかり力を出し切ることが大事」と話していた。そこからの暗転。八角理事長は「緊張感のある中で痛がるんだから、よほどだろう。軽傷であってほしい」と願った。【今村健人】

 ◆稀勢の里のけが 綱とりだった14年初場所12日目の琴欧洲戦で敗れた際に右足親指を負傷。「右母趾(ぼし)MP関節靱帯(じんたい)損傷で約3週間の安静加療」と診断され、7勝7敗で迎えた千秋楽を休場して負け越した。02年春場所の初土俵から初めての休場で通算連続出場は953回で途切れ、14年春場所は初めてのかど番となった。これまで稀勢の里の休場はこの1日だけ。