日馬富士、処分前に引退決断 退職金は多額もらえる

引退会見で目を潤ませ、唇をかみしめ下を向く日馬富士(撮影・梅根麻紀)

 暴力問題で動向が注目されていた大相撲の横綱日馬富士(33=伊勢ケ浜)が29日、現役を引退した。日本相撲協会に引退届を提出、受理された。同日に福岡・太宰府市内で行われた引退会見が、平幕貴ノ岩(27=貴乃花)への暴力を認めて謝罪した14日以来、半月ぶりの肉声となった。暴力についても先輩として礼儀、礼節を指導する中での行為だったと初めて胸中を明かし、再び謝罪。目に涙をためて「横綱としての責任」と繰り返した。恨み節はなく「感謝、感謝、感謝」と土俵に別れを告げた。

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 わずか2カ月前の秋場所を制した日馬富士は、目に涙をためながら会見場に入場した。こらえ切れず、涙をぬぐった師匠の伊勢ケ浜親方(元横綱旭富士)の隣で、グッとこみ上げるものを耐えた。「このたび、貴ノ岩関をケガさせたことに対し、横綱としての責任を感じ、本日をもって引退をさせていただきます」。開口一番引退を報告すると、途中「私は日本を愛しています。日本の国技を愛してます。ファンの皆さまに心からおわび申し上げ、そして心から感謝、感謝、感謝です」と熱弁を振るった。

 秋巡業中の10月25日夜、鳥取市内の酒席での貴ノ岩への暴力が自らを引退へ追い込んだ。何発殴ったかなど、暴力の詳細は鳥取県警と相撲協会の危機管理委員会が現在も調査中。近く県警の再聴取を受ける見通しのためすべては語らなかったが、同じモンゴル出身の貴ノ岩を弟弟子のように思っていた胸中を明かした。

 日馬富士 弟弟子が礼儀と礼節がなっていなかった時にそれを正し、直して教えてあげるのが先輩の義務だと思っています。弟弟子を思って叱ったことが彼を傷つけ、大変世間を騒がせて迷惑をかけることになってしまいました。行き過ぎたことになりました。彼のためになる、僕が正しいことをしているという思いが強すぎると行き過ぎるんだなと思いました。本当に…それだけです。

 翌日の10月26日には、貴ノ岩から謝罪され、握手で和解したと思っていたことも明かした。酒に酔った勢いでの暴力という疑念には「今までお酒を飲んで何か事件を起こしたことはありません。酒癖が悪いと言われたことは今まで1度もない」と否定した。他にも行き過ぎた指導があったのかと聞かれると「ない」と言い切った。

 秋場所で優勝したばかりの体力は維持できても、気力が追いつかず憔悴(しょうすい)していった。「横綱の名が傷つくので責任を取りたい」と、実は九州場所5日目には師匠に引退の意思を申し出ていた。加えて27日の横綱審議委員会で「厳しい処分が必要」という声が上がり、「引退勧告」の可能性も浮上。鳥取県警の捜査や相撲協会危機管理委員会の調査が進む中、処分を受ける前に自ら身を引く覚悟を決めた。「引退」は養老金や退職金が支払われる見込み。「相撲の名が傷つかないよう、ちゃんとした生き方をして恩返ししたい」。最後まで恨み節は吐かず、30分余りの電撃引退会見を終えた。

 ◆日馬富士公平(はるまふじ・こうへい)本名ダワーニャム・ビャンバドルジ。1984年4月14日、モンゴル・ウランバートル市生まれ。入門当初からのしこ名は安馬(あま)。大関昇進を機に日馬富士に改名した。01年初場所初土俵。04年春場所で新十両、同年九州場所で新入幕。三賞は、殊勲賞4、技能賞5、敢闘賞1。金星1個。優勝9回。家族はバトトール夫人と2女1男。186センチ、137キロ。

 ◆日馬富士の退職金 相撲協会では「養老金」と、十両以上の各地位で務めた場所数(全休を除く。2場所目以降)による「勤続加算金」を加えた金額が退職金として支給される。横綱の養老金は1500万円。日馬富士の勤続加算金は十両15万円×3、幕内20万円×12、三役25万円×11、大関40万円×21、横綱50万円×28で計2800万円。養老金と合わせて4300万円となる。このほかに理事会決議によって特別功労金も支給される。金額は実績により決められ、貴乃花の1億3000万円が過去最多。泥酔暴行騒動の責任をとって引退した朝青龍には1億2000万円(推定)が支給された。