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第14回イタリア大会

母国の支えだったハジの左足

 「この足はね、ハジにあげたのさ」。そう言って笑ったブカレスト大学生のペトレ君の左足は、義足だった。

 90年、イタリアの夏は暑かった。前年にベルリンの壁が崩壊、ルーマニアで革命が起こるなど東欧諸国は揺れに揺れていた。翌91年にはソ連崩壊、東西ドイツの統一も迫っていた。大きく変わろうとしていた欧州。そんな中、90年イタリア大会は行われた。

 革命後の混乱の続くルーマニアからの難民が、W杯を取り巻く社会問題として大きく報道されていた。代表を応援しにきたサポーターたちが母国に帰らず、イタリアへの移住を求めた。そんなルーマニアのサポーターたちに会いに行った。

 ローマ市内からタクシーで2時間。田舎町の古ぼけたレストランに、50人ほどが寝泊まりしていた。そこから電車を乗り継ぎ、試合を観戦しに行くという。庭に面したテーブルで、若い男女10人ほどがトランプに熱中していた。「日本から取材に来た」というと、イスを1つ空けてくれた。

 彼らの話は、刺激的だった。チャウシェスク大統領の圧政、それに続く革命と激しい市内の銃撃戦。ブカレスト大の学生も、銃をとって戦った。「亡くなった友達もいた。でも、それで民主化され、平和が訪れるのなら、必要な犠牲だったと思う」。明るい表情が、一瞬だけ暗くなった。

 揺れる国にとって、サッカーは最高の、いや唯一の支えだった。「僕らは試合を見に来たんだ。大会が終わったら? もちろんルーマニアに帰るよ」。代表チームの話をする時は、さらに声のトーンが上がった。「素晴らしいサッカーをするんだ。見たら絶対に好きになるよ」とも言われた。国民の期待を背負ったMFハジ率いるルーマニア代表は、決勝トーナメント1回戦でアイルランドにPK戦の末に敗れた。「東欧のマラドーナ」が最も輝くのは「東欧」という言葉がなくなった94年米国大会だった。【90年大会取材・荻島弘一】

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