向井理7年かけて祖母手記を映画化!自ら祖父吾郎役

クールにポーズを決める向井理(撮影・丹羽敏通)

 向井理(35)が映画を企画した。祖母の手記を題材にした「いつまた、君と 何日君再来」(深川栄洋監督、24日公開)で7年かけて映画化にこぎつけた。自ら祖父も演じている。夢の実現に至る過程や、仕事に対する気持ちの変化も明かした。

 向井が大学生の頃、母親と2人の叔父が、誕生日を迎える祖母の朋子さんに、戦中、戦後を生き抜いた朋子さんがつづった手記を本にして贈ろうと言い出した。「原稿用紙にあった手記をパソコンでワードに起こしてデータを出版社に送り、本にしてもらいました」。その後、俳優になり、キャリアを重ねていく中で映画化を思いついた。「この仕事でいろんな経験をして、あの時代を残しておくべきだろうと思った。戦後の大変な時代を生き抜いてくれた人が僕の場合は周りに分かりやすくいて、証拠として手記があり、映像化する意義のあるものと思った」。残すことに加えて「その流れで今があるんですよということを伝えたかった。その時代に生きた人たちを(映画として)残してあげたい。それを見た人がどう思うのか興味ある。そこが一番大きいですね」。

 10年に漫画家水木しげるさんの生涯を描いたNHK連続テレビ小説「ゲゲゲの女房」への出演が、映画化に向けた動きを本格化させた。「貧しいけど愛のある家族の話がすごく丁寧に温かく書き上げられていた」と山本むつみ氏の脚本に感心した。「こういう人に書いてもらったら、すてきな作品になると思い、手記を山本さんに渡して脚本をお願いしました」。

 準備はさらに進む。12年に撮影していた主演映画「きいろいゾウ」の三重ロケの打ち上げ席上で、制作会社のプロデューサーに相談した。「少しお酒を飲みながら口説いたんです」。依頼した理由は「作品を気持ちで作ってくれる人たちが多いところはここだと思って、狙い撃ちでした。お金になるから乗っかるのではなく、いい作品を本当に作りたいという人たちだったんです」。

 所属事務所の一室で企画会議を何度も開いた。劇中に現代の描写を入れることなどは向井が提案。祖母を尾野真千子(35)が、祖父にあたる夫は自分で演じることも決まった。メガホンは12年「ガール」で演出を受け、信頼を寄せる深川監督に依頼した。

 企画者の1人だが、昨年2月にクランクインした撮影では、演技だけに集中した。映画化まで7年を費やしたが、絶妙のタイミングだった。「劇中の2人が結婚した時、(祖父の)吾郎さんは33歳。ちょうどクランクインした時に33歳だった。20代だったらきっと感覚的に違ったでしょう」。

 完成した作品のエンドロールには「出演」と「企画」として名前が2度登場する。「映画のクレジットって毎回、感慨深い。名前がせり上がってくると、誇らしい気持ちになる。後にも先にも2回出ることなんてないから、感動を2回味わえるのは、すごくぜいたくに思います」。

 製作スタッフに名を連ねて、仕事に対する気持ちに変化が生まれた。まず脚本の重みを再認識した。「会議を重ね、何を伝えたいのか、互いの感覚的なものをすり合わせ、脚本家さんに書いてもらって、1歩ずつ踏み上がっていくものなんだなって」。企画者としての責任も感じた。「大変だけど、その分、やりがいはありました」。さらに「スタッフと俳優はゴールテープを切る瞬間が違う。それを味わえたのはうれしかった。ゴールは3回あった。脚本ができた時、クランクアップ、もう1回まであと少しです」。「もう1回」とは「公開初日」だ。

 貴重な経験を味わうきっかけをくれた祖母とは、小学生の時から10年ほど一緒に暮らした。「感謝を忘れない人で、90歳を過ぎて言葉もあまり出なくなってからも、何かすると『ありがとう、ありがとう』と言う人でした」。映画化の準備が進んでいた3年前、97歳で他界した。「個人的には映画を見せたかったと思います」と残念がるが、まもなく迎える公開初日、朋子さんは天国から「ありがとう」と言ってくれるはずだ。【杉山理紗】

 ◆映画「いつまた、君と」 向井の祖母芦村朋子さんの手記が原作。戦中、戦後と貧しいながらも夫吾郎さんと家族を愛し懸命に生きる姿を描いた。晩年の朋子さんを演じた野際陽子さん(享年81)にとって遺作映画となった。