勸玄くん、ママみててね 海老蔵と宙乗り安全祈願

宙乗り安全祈願修祓式で、神事に出席し、宮司から玉串を受け取る市川海老蔵と堀越勸玄くん(撮影・浅見桂子)

 歌舞伎俳優市川海老蔵(39)と長男堀越勸玄(かんげん)くん(4)が29日、東京・歌舞伎座で、「七月大歌舞伎」(7月3日初日)の安全祈願修祓(しゅうばつ)式を行った。海老蔵の妻小林麻央さん(享年34)が22日に亡くなってから、2人がそろって公の場に出るのは初めて。勸玄くんは夜の部「駄右衛門花御所異聞」で、史上最年少の宙乗りに挑戦する。

 海老蔵と勸玄くんは、歌舞伎座内での稽古後、劇場内で行われた修祓式に出席した。海老蔵は稽古着にはかま、勸玄くんは稽古着に羽織姿で、手をつないで姿を見せた。

 2人は客席最前列に並んで座り、勸玄くんは劇場内を大きく見渡したり、宙乗りのワイヤや、安全装置であるハーネスを指さすなど好奇心旺盛な様子。隣の海老蔵は静かに見守っていた。名前を呼ばれ、舞台上にしつらえられた祭壇に玉串を奉納する時には、勸玄くんはしっかりと二礼二拍手一礼。麻央さんが亡くなって1週間しかたっていないが、2人とも気丈に務めを果たした。

 修祓式は宙乗りなどの特別演出が無事進行するよう祈願する神事。通常は関係者だけで行うが、特別に報道陣に公開された。

 勸玄くんは「駄右衛門-」で、白狐(びゃっこ)役を務め、海老蔵とともに史上最年少の宙乗りを行う。白狐は、海老蔵が務める3役のうちの1つである秋葉大権現の使いの役で、海老蔵との掛け合いをするようなせりふもある。

 もともと勸玄くんは出演予定ではなかったが、中村獅童が肺腺がんのため休演。海老蔵が「一門で私より人気のある役者」として勸玄くんの出演が決まった。乳がんと闘う麻央さんの励みになれば、という思いもあった。

 花道から約10メートルの高さまで上がる宙乗りには危険も伴う。麻央さんは亡くなる6日前の6月16日のブログで「ブランコもまだゆっくり座っているのに。心配ですが、本人は飛ぶ気のようです」と心配しつつ、役作りのため白虎のお面を購入したことを明かすなど応援し楽しみにしていた。心配は尽きなかったが、舞台に出たいと言った息子の意志を尊重していた。

 誰よりも麻央さんに見てほしかった舞台だった。海老蔵は、麻央さん死去を報告した23日の会見で「見に行くことを目標としていた。心配で心配でしょうがないのではないでしょうか」と涙で語った。

 海老蔵はブログに連日、麻央さんが見守ってくれていると記しているが、思いは複雑だ。29日の朝も「歌舞伎座の大舞台で、空を飛ぶところは、見てほしかった…です」と胸中をつづった。別の日には、母を亡くしてすぐの勸玄くんにとって「酷な結果となってしまった」と揺れる思いを明かした。それでも2人で安全祈願をし舞台への意欲も新たにした。一緒に飛ぶ様子が、麻央さんに届くことを願っている。

 ◆成田屋 市川団十郎家の屋号。元禄歌舞伎を代表する初代市川団十郎が成田山新勝寺を信仰し、関係が深いことから「成田屋」と呼ばれるようになり、屋号の始まりとされる。初代団十郎は荒事を導入し、見えも始めた。以降、代々の団十郎は人気者として江戸歌舞伎をけん引し、7代目が市川宗家のお家芸として、「助六」「勧進帳」などを「歌舞伎十八番」に選定した。海老蔵の父12代目市川団十郎が13年に亡くなり、海老蔵が13代目団十郎を襲名する予定だが、その時期は未定。長男勸玄くんは15年に初お目見えしており、8代目市川新之助を名乗っての初舞台は、7歳となる20年が有力という。