28歳女性プロデューサーが思うテレビドラマの未来

テレビ朝日系「おっさんずラブ」の貴島彩理プロデューサー(撮影・村上幸将)

<テレビ朝日系「おっさんずラブ」貴島彩理プロデューサーが語る3>

 おっさん同士の純愛を描き、話題のテレビ朝日系「おっさんずラブ」(土曜午後11時15分)。貴島彩理プロデューサー(28)に制作の裏側を聞く最終回は、ドラマのプロデューサー3年目の貴島プロデューサーが考えるドラマ、これからのテレビとエンタメについて、そして意外なルーツについて語る。

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 NHK連続テレビ小説「半分、青い。」(午前8時)の脚本を担当する北川悦吏子氏が、4月29日に「おっさんずラブ」について言及したツイートが、インターネットニュースになるなど話題となった。

 「ダメだ。深夜におっさんずラブとか見たら、変なテンションに。あれ、作ってるの、貴島さんの娘さん。貴島さんは私と『愛していると言ってくれ』を作ったのに、娘さんは、おっさんずラブを作ってる。衝撃ーーー!なぜにっ。でも、面白かったです」(原文のまま)

 貴島プロデューサーの父は、北川氏が脚本を担当した95年のTBS系ドラマ「愛していると言ってくれ」、92年の同系「ずっとあなたが好きだった」などの制作で知られる、TBS執行役員制作局付ドラマ担当プロデューサーの貴島誠一郎氏だ。父の存在が重圧にはならないのだろうか?

 貴島P 全然、ならないですね。父と私は、別の人間…という感じです。北川さん、見てるっ! って…まさか見ているとは思わなくて。「半分、青い。」のパロディーを入れちゃって…大丈夫かな? と(笑い)めちゃめちゃ自分が好きなので入れちゃいました。(脚本の)徳尾浩司さんも、ドラマが好きなので。

 劇中音楽を担当する河野伸氏は、TBSでも多数のドラマの劇中音楽を担当した。また初めて連続ドラマのプロデューサーを務めた17年の「オトナ高校」でも、父が総指揮を務めた09年の日曜劇場「官僚たちの夏」の脚本を担当した橋本裕志氏を起用。何より「おっさんずラブ」のポスターは「下町ロケット」や「陸王」に似た“挑戦状”とも取れるビジュアルだ。

 貴島P ははは、リスペクトからの…ですよ!(笑い)パロディーとか(劇中でも)めちゃくちゃ出てくるんですけど、好きだから入れていて。「陸王」もそうですし。(河野氏、橋本両氏は)私にとって一緒にやりたい人というだけで、言われてみれば父とやっていたというだけですね。

 「おっさんずラブ」は、一部で4月期の満足度トップとも報じられた。この先、どうなっていくのか?

 貴島P うれしいですね。普通にありがたいなぁと思って。この先は最後まで、衝撃の展開の連続なので、楽しんで欲しいと思います。でも、衝撃を起こしたいからって(登場人物を)死なせるのは、あまり好きじゃなくて…死んじゃったら悲しいじゃないですか? 登場人物のことを、まるで生きているかのように好きになったり、みんなに幸せになって欲しいけど誰のことを応援したらいいの? みたいな気持ちで見る“キャラクタードラマ”が面白いなと思っています。

 昨今、連続ドラマでも、1話完結スタイルが支持される傾向にあるが、貴島プロデューサーは、あえて続きものの魅力にこだわる。

 貴島P もちろん1話完結も面白いし、必要だと思うんですけど、私はこれまで「来週、どうなるの? もう待てない…毎週、見るために頑張って学校へ行こう、仕事をしよう」と思ってドラマを見てきた。そういう楽しみ方をするのが、連ドラの面白さだと思う。それに(「おっさんずラブ」のように原作のない)オリジナルドラマは、本当に先がないから純粋に楽しんでもらえるし。私…めちゃめちゃドラマが好きで全部見ているんです。

 貴島プロデューサーは「入社から3年半はバラエティーにいてADとディレクターをやって、2年前にドラマ部に異動してきました」と語る、まだまだ若手のクリエイターに過ぎない。一方でインターネットの普及、映像配信サービスの乱立などで、テレビの視聴率低下をはじめエンターテインメントの楽しみ方の変容が叫ばれる今、そのただ中にいるオンデマンド世代の1人として思うところがある。

 貴島P 私も日々、数字が出ると手探りだなぁと思うんですけど、昔みたいに数字だけが全てではないふうに世の中がなってきている気がします。(視聴者が見るのは)必ずしもリアルタイムではないので、数値で表すのは難しい時代だと思う一方で「逃げるは恥だが役に立つ」、「家政婦のミタ」、「陸王」、「ドクターX~外科医・大門未知子~」など、数字が出るものは出る。ということは、まだ今も世の中にテレビを楽しんでくれる層はいる。テレビは、もうすぐ終わるとか一部で言われていますけど、そんなこともないんじゃないかなと思っています。

 最後に、テレビだから出来ること、可能性を踏まえた目標を語った。

 貴島P 映画も舞台もすごく好きなんですけど、自分から足を運ばないといけないものじゃないですか? テレビは妊婦さんも、病気の方も、おじいちゃんもおばあちゃんでも見られる。たまたまテレビをつけても楽しい…いろいろな人に簡単に届くから、みんなが楽しめる。明日頑張ろうかなと思えるドラマを今後も作っていけたらと思います。

 ◆貴島彩理(きじま・さり)1990年(平2)3月20日、東京都出身。慶大法学部法律学科に進学し12年テレビ朝日に入社。バラエティー部で「お試しかっ!」「日曜芸人」でAD、ディレクターを経て16年にドラマ部へ異動。「家政夫のミタゾノ」などの制作に携わった。「おっさんずラブ」は連ドラプロデュース2作目となる。