W杯優勝の夢見られる9カ月/歴代担当記者振り返る

日本対サウジアラビア サポーターの声援に手を上げて応えるハリルホジッチ監督(撮影・河野匠)

<Nikkan eye W杯出場特別編(6)>

 W杯出場を決めた日本代表について、サッカーを長く取材する記者たちが独自の視線で分析する「Nikkan eye」特別編の第6回は「W杯優勝の夢」。

    ◇     ◇

 疲労か暑さか、選手とボールの動きにスピード感が乏しかった。何より違ったのは試合に対する「思い」の差。W杯出場がかかるサウジアラビアと出場決定直後の日本では、この結果も仕方ない。「出場が決まっていて良かった」と思いながら、1位突破でW杯を目指す代表チームを見ながら幸せな気分だった。

 「日本の記者が何しに来たんだ?」。イタリア人記者に聞かれたのは90年W杯の時だった。Jリーグ発足もドーハの悲劇も、それから3年後。当時の日本はW杯にとって「よそ者」にすぎなかった。「日本にフットボールはあるのか?」と薄ら笑いで言われて「いつか、代表チームと一緒に来たい」と思ったものだ。

 それから27年、日本は完全に「W杯の一員」になった。98年に参加国が24から32に増え、アジア枠が広がったのは大きい。今の4・5枠なら94年も86年も、さらに54年大会も出場していたことになる。それでも、6大会連続出場は素晴らしい。四半世紀前のことを考えれば、夢のようだ。

 強い代表を支えるのは、日本サッカーの進歩だ。Jリーグ誕生で環境は大きく変わった。02年のW杯も、後押しした。30年前の「マイナースポーツ」は「国民的スポーツ」とまで言われるようになった。

 かつてオフト監督は「代表チームの力は国のサッカー力と同じ」と言ったことがある。傑出した個人の力や監督の采配で勝てる試合もあるだろう。が、本当に代表を強くするには、協会やメディア、応援するサポーターも含めた総合力が必要になる。今の日本にはそれがある。少なくとも、W杯常連国としての「サッカー力」はあると思う。

 これから9カ月、サッカーファンは、いや多くの日本人は「W杯のある日常」を過ごすことができる。初出場した98年大会の時のように「出て満足」とはならない。強化スケジュールから監督の采配、選手のプレーぶりに至るまで「世界で勝つために」厳しい目が代表に注がれる。それが、チームを強くするカギだ。

 急激に進化した日本のサッカーだが、最近は停滞感も感じる。ベスト16には2回入ったが、ベスト8への壁は高い。今の日本の「サッカー力」の限界なのかもしれない。それをさらに高めるためにも、9カ月を思い切り楽しみたい。「W杯優勝」の夢を見ることができるのは、W杯出場国だけなのだから。(おわり)【荻島弘一】