<明治安田生命J1:浦和2-0柏>◇第2ステージ第2節◇9日◇埼玉
後輩を立てる性分が、駆け引きの材料になった。前半32分。浦和MF阿部勇樹(34)は、正面左寄りからの直接FKの場面で、左利きのMF柏木とともにキッカーの位置に立った。自分でボールをセットしたが、すぐには蹴らず、柏木に耳打ちをする。「ボールをまたいで」。柏木にキックフェイントをさせて、自ら右足を振り抜く。ゴール左上隅、完璧なコースを射抜いた。
10年4月3日湘南戦以来のFK弾。阿部は「めったに蹴らない人が蹴るから決まった」と照れ笑いした。柏木は「耳打ちされた瞬間、壁がずれたかも」と証言。柏MF秋野も「柏木さんが中を見ていたので、クロスかと…」と振り返った。
右足の球威、精度は国内屈指。06年まで在籍した千葉ではFKでリーグ6得点し、04年アテネ五輪に出場した当時は「アベッカム」と呼ばれたほどだ。しかしキャリアを重ねるにつれ、蹴りたい意欲を持つ後輩に譲るようになった。
阿部がレスターから浦和に復帰した12年以降、リーグ戦では前節までに柏木が37本(4点)槙野が26本(1点)と多くの直接FKを蹴ってきた。阿部はわずか9本しか蹴っていない。
この日はDF槙野の出場停止で、出番が来た。テレビのインタビューでは「次に決めるのは7年後」と冗談めかしたが、取材エリアでは「左右のキッカーがそろってこそ、FKは決まる部分もある」と言った。
柏は前線からプレスをかけてビルドアップを阻止する「浦和対策」を徹底してきた。特に前半は苦しんだが、阿部の1発が流れを変えた。ベテランが加える武器が、浦和を連勝街道に乗せた。【塩畑大輔】