いわきFC菊池将、サッカーも仕事もここなら両立

4月10日、練習に励む菊池将

 福島県社会人サッカー1部のいわきFCが、21日の天皇杯3回戦(札幌厚別)でJ1の北海道コンサドーレ札幌と激突する。米アパレル「アンダーアーマー」を取り扱う「株式会社ドーム」をバックに、再始動2年目ながら4月の天皇杯福島県決勝ではJ3福島ユナイテッドFCを撃破。破竹の勢いで強さを増している。一方で、いわきFCの選手はプロではなく、平日は「ドームいわきベース」内で仕事をして、サッカーと両立させている。加入2年目で選手会長を務めるFW菊池将太(24)はフォークリフトの免許を取得し、仕事にも本格的に取り組んでいる。いわきFCイレブンの日常の姿を追った。

 サッカー選手である前に、社会人であれ-。いわきFCイレブンは、サッカーと仕事を両立させている。平日の午前7時には、食堂で朝食を取り、練習に備える。週4日ある練習後には、ベース内で午後2時から午後7時まで仕事をこなす。選手会長の菊池将は規則正しい生活サイクルに、肉体の変化を感じていた。

 菊池将 クラブ側が用意してくれたメニューを食べ続けたら3~4キロ増えて、筋肉質になった。前より、臆することなく体をぶつけられるようになった。

 クラブが掲げる「日本のフィジカルスタンダードを変える」を食事面から徹底している。朝食の他、練習と仕事の合間にとる昼食、仕事後の夜ご飯は、いずれもクラブ側が管理したメニューだ。食事を提供する食堂は、選手が普段の仕事をするドームいわきベース内にある。倉庫内は無数の段ボールが置いてあり、選手を始め100人以上の正社員やパートたちが働いている。主な仕事は搬出を意味する動脈と、搬入を意味する静脈の2つの工程に分かれている。

 菊池将 仕事はもう慣れた。でも1年目は大変だった…。

 再始動初年度で快進撃を始めたいわきFCだったが、実は仕事との両立という面では苦労の連続だったという。

 菊池将 自分らはJリーガーになりたかったけど、なれなかった側の人間。なのに1年目はプロと勘違いしていた部分があって、与えられた仕事をちゃんとこなせていた人は少なかったと思う。

 選手たちが倉庫内で働く従業員すべてから、応援されてはいなかった。仕事を完璧にこなしていたわけではなかったので、当時はいわきFCの活動自体を快く思わない従業員もいたという。

 菊池将 自分も最初は仕事をあまりやれてなかった組。でもこれじゃ駄目だと、思えることがあった。

 ある日、菊池将は60歳を超える高齢のパートの人と2人きりで仕事をしていた。サッカーの練習終わりに仕事をしていた菊池将に気をつかって、パートが「いつもサッカーを頑張っているから、段ボールを運んであげるよ。休んでていいよ」と言葉をかけてきた。体に電流が走った瞬間だった。

 菊池将 何で俺が率先して運べないんだろう、何で自分がやらないんだろうって思った。ちゃんと働くしかない、今まで現実を受け止めることができてなかった。

 心を入れ替えた菊池将は率先して仕事をこなすと、パートから握手をしてくれるようになった。さらに仕事に貢献したいと思った菊池将は、在籍選手唯一となるフォークリフトの免許を、2月に自らの意思で取得した。2年目となった現在、菊池将を始め、昨年から在籍している選手が中心となって、後輩たちに築き始めた伝統を伝えている。

 菊池将 仕事も一生懸命、それがいわきFC。それを学んで欲しい。自分たちはただサッカーで勝つだけじゃ駄目。仕事の方から変えて、会社内の人に認められないと、周りの人がついてこない。じゃないと、地域の人とつながっていけない。

 クラブは目先のJ1昇格だけではなく、「いわき市を東北一の都市にする」という理念を掲げている。そのためには、社員教育、選手教育なくして前進はない。いわきFCは着実に階段を上り始めている。【取材・構成=高橋洋平】

 ◆いわきFC 13年からあった同名チームを「株式会社ドーム」が運営権を譲り受け、15年12月に始動。現在、頂上とするJ1からすると実質7部にあたる県1部リーグ所属。エンブレムはいわき市の形。社長は前湘南社長の大倉智氏(48)。