イングランド「弱虫」監督が解いたPK戦の呪い

コロンビア対イングランド PK戦でコロンビアを破り歓喜するケーン(左から3人目)らイングランドの選手たち(撮影・江口和貴)

<ワールドカップ(W杯)ロシア大会:コロンビア1(3PK4)1イングランド>◇決勝トーナメント1回戦◇3日(日本時間4日)◇モスクワ・スパルタク

 イングランドがPK戦の呪縛から解放された。コロンビアと1-1で迎えたPK戦を4-3で制した。PK戦はこれまでW杯で3回全敗など鬼門。サウスゲート監督も、96年欧州選手権で最後のキッカーとして失敗し「戦犯」となった。その歴史もあって今回は十分に準備、研究して迎えていた。66年大会以来2度目の優勝を目指すサッカーの母国が、弾みのつく形で06年大会以来の8強入りを決めた。

 サウスゲート監督が自らの足でつくったジンクスを破った。その手腕でPK戦の「黒歴史」に終止符を打った。5人目のダイアーのキックは相手GKの手に触れながらも、力強くゴール左下隅に入り、勝利が決まった。「すべての選手とスタッフの努力があったからこそ、こんな形で勝つことができた」。同監督はスタッフと抱き合った。

 悪夢を振り払った。96年欧州選手権準決勝ドイツ戦で、6人目のキッカーとして登場したが、キックは弱々しくGKに止められた。チームは敗退。W杯初制覇から30年後、同じ地元開催での戴冠を期待した国民からは戦犯扱いされ、「弱虫」と呼ばれた。母親にも「なぜ思い切り蹴らなかったのよ?」と責められた。

 だからこそ、今回はPK戦を想定して万全な準備をした。「チーム練習の最後に疲れ切った体でPKを練習してきた」とDFトリッピアー。相手GKが跳んでも届かない左上隅にたたき込んだ。GKピックフォードは「事前に相手のPKを研究していた。想定外のPKはファルカオだけ。バッカが弱点だと思っていた」と胸を張る。中央に蹴り込んできたバッカの球は、右に跳びながらも左手を残して、はじき返した。

 勝利を決めるPKを蹴ったダイアーは、後半ロスタイムの失点で延長突入にも「パニックにはならなかった。PK戦への心の準備はできていた」と明かす。準備しただけ、自信があったのだろう。「PK戦は選手を信じ、冷静に見ていられた」と指揮官。「これで次世代にも自信を与えられる」と誇らしげだ。

 13年からU-21代表監督を務め、当時の教え子がケーンらだ。16年にA代表監督に昇格すると、初合宿では精神面強化のため、軍隊キャンプ参加を実施。自らも21キロの荷物を背負って走った。平均25・6歳と出場国中3番目に若いチームながら、メンタル面が大きく影響するPK戦を勝ち抜くことにもつながった。

 一方で同監督は第1戦の後、オフのランニング中に転倒し、右肩を脱臼する“おちゃめ”な面も。勝利の瞬間、ガッツポーズをしたのは左手だった。

 ◆イングランドのPK戦 これまでのW杯で3戦3敗。欧州選手権でも96年準々決勝スペイン戦に勝った後は3連敗中と苦手にしていた。98年W杯フランス大会では決勝トーナメント1回戦のアルゼンチン戦で後半2分にベッカムが退場し、延長戦を含めて73分間、10人でプレーして2-2と粘ったが、その後のPK戦で敗退。06年W杯ドイツ大会でも準々決勝のポルトガル戦でルーニーが後半17分に退場。残る10人で延長戦まで0-0も、最後のPK戦で敗れた。