太鼓のマノロはスペイン協会“公認”10度目の参戦

太鼓をたたいて盛り上げるスペインの名物サポーターのマノロさん(撮影・岡崎悠利)

 ワールドカップに人生を懸けるのは選手だけじゃない。世界の話題をお届けする「ズドラーストヴィチェ!(ロシア語でこんにちは)」の第4回は、サッカーの祭典に各国から集まる名物サポーターに注目した。スペイン代表を応援し「太鼓のマノロ」の愛称で呼ばれるマヌエル・カセレス・アルテセロさん(69)は、スペイン協会からも一目置かれる存在。W杯はロシア大会で10度目の参戦となる。情熱の国のサポーターをけん引する男に現地で話を聞いた。

 スペイン南部のクラブ、バレンシアのメスタージャ・スタジアムの目の前にある小さな料理店。店内の壁と天井は、サッカー関連の写真やタオルマフラーで埋め尽くされている。試合日はいつも超満員になるこの店のオーナーがマノロだ。サッカー観戦歴は今年で実に55年目になる。

 スペイン代表の試合前には「マノロの儀式」の時間が設けられる。誰よりも早くピッチに登場。センターサークルの芝生にキスをし、メインとバック、両ゴール裏とスタンド4方向に向かって太鼓をたたく。低い響きでサポーターの熱気を高める。マノロがなぜこれほどの存在になれたのかは「企業秘密だ」と笑う。W杯予選などスペイン協会が主管する試合では、マノロのための時間がある。

 W杯に足を運ぶのは今大会で実に10大会目。名物サポーターとしてチームを鼓舞する一方、なかなかW杯で優勝に手が届かず「自分が疫病神なんじゃないか、悪い運を持ってきてしまっているんじゃないかと思うこともあった」という。だからこそ、10年南アフリカ大会で目の当たりにした母国の優勝は「興奮で死んでしまうのではないかと思った」というほど強く脳裏に焼きついている。

 今年で70歳を迎えるマノロは満身創痍(そうい)だ。重さ約6キロの太鼓を抱える負担もあって腸ヘルニアを患い、これまで腹部を6度手術。心臓の手術も経験した。40年前にはロシアでの試合前に膝を負傷し「医師の指示を聞かずに救急車でスタジアムへ行って、ストレッチャーに乗ったままピッチに出たこともあったよ」と笑って明かした。

 夢はもう1度W杯優勝に立ち会うこと。しわくちゃの笑顔で「ロシア大会と、もうあと2回W杯に行ったら終わりにしようと思っているよ」と、78歳になる26年大会までの“現役続行”を宣言した。【岡崎悠利】