桐生祥秀の秘密、硬い足首と1秒間5歩の高速ピッチ

9秒98で日本人初の9秒台を出す桐生のゴールスリット写真。サインは桐生本人のもの(提供写真)

<陸上:日本学生対校選手権>◇第2日◇9日◇福井県営陸上競技場

 陸上男子の桐生祥秀(21=東洋大)が男子100メートルで日本初の9秒台をマークした。速さの秘密は、硬い足首と1秒間に5歩も刻める高速ピッチにあった。

 身長176センチと大柄でない桐生の武器はどこにあるのか? まず足首が硬い。立った状態でかかとを地面につけたまま、お尻を真下に落とすとバランスを崩して後方に転ぶ。和式トイレも苦手。スポーツでは関節の柔らかさが競技力を向上させるケースが多いが、スプリンターは違う。硬い足首が地面から受ける反発の力を逃さず推進力に変える。「足首はなるべく硬く使う」。さらに1秒間5・0歩の高速ピッチ。ボルトの4・48歩を上回り、世界歴代2位タイソン・ゲイと同じレベルにある。

 日本陸連の科学委員会のデータによると、9秒台に達するための条件はトップスピードが秒速11・60メートル(時速41・76キロ)以上になること。3月オーストラリアでの競技会。10秒04で走った桐生は簡易的な計測ではあったが、秒速11・70メートル(同42・12キロ)を出した。データ上は、風やレース運び次第で、いつ9秒台を出してもおかしくない状況だった。

 そしてシューズは、担当者泣かせでもある。アシックス社の田崎公也さんは「大変ですよ」と苦笑いする。一般的なトップ選手は、スパイクを年3回ほど新調する。桐生の場合は月に1回ペースで変更する。練習の感覚を試合でそのまま維持するため、練習用と試合用でスパイクを使い分けない。スタート時は爪先を地面に擦るように低く出る。だから頻繁に替える必要がある。

 この日、決勝の15分前。招集場所から、桐生はダッシュでサブグラウンドに戻ってきた。履いていたスパイクの先に穴が開いていた。大急ぎで新しいスパイクに変更した。快挙の裏にはこんなドタバタ劇もあった。【上田悠太】