錦織圭のここを見ろ! 全豪テニスに新兵器で挑む

全豪に向け、サーブを練習する錦織

 ツアー本格参戦から今年で10年目を迎える男子テニス、世界5位の錦織圭(27=日清食品)。円熟期を迎え、17年も新たな武器をひっさげ、まずは16日開幕の全豪(メルボルン)で4大大会初優勝に挑む。今年の錦織が備える3つの新兵器を紹介する。

●ネットプレーで追い詰める

<その1>新兵器サーブ&ボレー

 豪快で安定したストロークもいいが、錦織のネットプレーもかっこいい。球をたたいた後に、ラケットが前方ではなく、下に落ちる不思議なフォームだが、球は前に飛ぶ。錦織オリジナルだ。昨年後半から、一気にボレーなどのネットプレーが増えた。「早い仕掛けをして、相手を追い詰めたい」。サーブをして、すぐにネットに出るサーブ&ボレーも取り入れる。

 錦織のスタイルは、大きく分けて4段階で発展してきた。最初は、遊びの延長で変幻自在、意表を突くプレー。次に、リスクを抑え、安定したストロークを磨いた。3段階目が、チャンと取り組んだ前陣速攻で、速い展開のショット。そして、今、4段階目がサーブ&ボレーなどのネットを加えた全方位型スタイルだ。

 1段階目のスタイルで、サーブ&ボレーは、たまに使用した。しかし、それは意表を突く飛び道具。今は計画的で、速くないサーブを補う役目も果たす。サーブでエースを取れなくても、コースをついたサーブで、相手のリターンを崩し、すぐにネットで決める。短期決戦で、体力消耗も少ない。

 今年の目標は、このスタイルの完成だ。根っからのネットプレーヤーではないため「ネットに出るタイミングが難しい。まだ間違うこともある」。このタイミングさえ体にたたき込めば、スタイルの幅が大きく広がる。全豪で、ネットプレーが光るとき、悲願の4大大会優勝がついてくる。

<<その2は「忍者走り」>>

●真横へ忍者走りで消耗防ぐ

<その2>新兵器ナイキでフットワーク

 錦織は、今年から、ナイキと複数年のシューズ契約を結んだ。ジュニア時代から長年、アディダスを愛用してきたが、「軽い上に、非常にしっかりサポートがあって丈夫」という理由で採用した。まだオリジナルをつくるまでは行っていないが「いろいろ改良は頼んでいる」という。

 そのシューズが支えるフットワークは、錦織の生命線だ。現在のトップ10で、身長180センチ以下は178センチの錦織だけ。8頭身のモデル体形じゃない限り、1歩の幅も、必然的に他の選手に比べて狭くなる。そのハンディを、細かなフットワークで、効率的な動きでカバーするのが錦織の忍者走りだ。

 14年全米準優勝の時、ベスト4に残ったジョコビッチ、チリッチ、フェデラー、錦織の中で、錦織は走った合計距離が最も短かった。長くなれば、それだけ体力を消耗し、球に追いつく時間を要する。小柄な錦織にとって、それでは致命的だ。

 秘訣(ひけつ)は、通常のストロークで、飛んでくる球に対して前後の動きが少ないことだ。左右に振られても、飛んでくる球の深さはあまり関係なく、真横に動くことが多い。その分、走る距離は短くなるが、打点のタイミングが難しくなる。それを可能にするのが、錦織の忍者走りとたぐいまれなる才能だ。

<<その3は日本の音楽>>

●心を癒やす心を癒やす「大橋トリオ」

<その3>新兵器大橋トリオでリラックス

 16日、現地時間午前11時。今年の全豪オープン1回戦を前に、集中する錦織。その耳には、柔らかな「大橋トリオ」の歌声が流れているはずだ。これが“趣味”、というのは「ないのが悩みなんですけどねぇ」と話すが、音楽はよく聴く。「大橋トリオ」は、集中したり、リラックスするための17年の新兵器だ。

 聴く音楽の移り変わりを聞くだけで、錦織の心情が分かるかもしれない。「米国に来たときは、一時、洋楽ばかり聴いていた」。誤解を恐れ「こういう言い方は悪いかも」と前置きした上で、「J-Popなんて」という時期があったという。

 英語もしゃべれない。環境、文化、食事もまったく違う米国に13歳で渡り、必死で米国に染まろうとしている姿が浮かぶではないか。また、少し格好をつけたくなる年齢でもある。日本は忘れなければ、物心がついてしまう年齢で、わざと日本を遠ざけていたのかもしれない。

 それが、今は日本を意識する余裕もできた。「テニスだけのために米国にいる。テニスを終えたら絶対に日本に帰る」と言ってはばからない。基本、日本が大好きだ。「大橋トリオ」の心を癒やす響きは、世界を舞台にしながらも、日本に思いをはせる17年の新たな武器なのかもしれない。

 ◆WOWOW放送予定 全豪オープン。16~29日まで連日生中継。