小平奈緒圧勝 食事療法と肉体改造で鋼の体を構築

女子500メートルで力のこもった滑走を見せる小平(撮影・河野匠)

<スピードスケート:世界距離別選手権>◇第2日◇10日◇韓国・江陵オーバル◇女子500メートル

 小平奈緒(30=相沢病院)が自らの日本記録を0秒16更新する37秒13の好タイムをたたき出し、同大会の個人種目で日本女子初の金メダルに輝いた。今季W杯出場6レース全勝で期待が高まる中、スケート王国オランダで学んだ集中力を発揮。五輪連覇中で地元韓国のヒロイン李相花(27)を0秒35差に抑え、世界の頂点に立った。個人種目での日本勢の金メダルは清水宏保、堀井学、加藤条治に続いて4人目の快挙となった。

 日本女子初の五輪金メダルが、はっきり見えた。来年の平昌五輪が開かれる日本海に面したリゾート地の江陵。小平は自らの日本新記録を更新する37秒13の好タイムで完勝すると、右拳を握り、両手をたたいた。「オリンピックへの最高のシミュレーションになった」。プレ五輪制覇の価値をかみしめるように言った。

 スタートの100メートルは同組ハーディー(カナダ)に100分の2秒遅れる。想定外のミスだったが動じない。すぐに上下動の少ない精密機械のような滑りでぐんぐん加速。五輪連覇中で地元韓国の2位李に0秒35差をつけて圧勝した。同大会日本女子初、自身にとっても世界大会初の金メダルを手にした。

 絶対的な優勝候補で迎えたが「あまりドキドキせず、自分に集中できた」。ソチ五輪後、2年間のオランダ留学で培った「金メダル魂」の成果だ。98年長野、06年トリノ五輪で金メダル3個のマリアンヌ・ティメルさん(42)がコーチを務めるプロチームに加入。最初にくぎを刺された。「日本人は謙虚で、お辞儀ばかりするが、リンクではあごを上に向けて、胸を張れ。自分がボスと思え」。引っ込み思案な性格だったが、自己変革に取り組んだ。

 留学2年目になると、チームのリーダーシップを握る。「一番小さな日本人の自分が“もう1本”“もう1本”とみんなを鼓舞した」とリンクでは謙虚さを返上。強気を貫き、レース時は集中力を研ぎ澄ます。殺気立つような雰囲気を身に付けた。シーズン終盤にもろさを出した、かつての姿はない。結城コーチも「オランダの経験で、何があっても大丈夫と思える」と精神面の進化を強調した。

 昨季はオランダで牛乳と卵の遅延性アレルギーにかかり、不振を極めた。昨年5月に帰国すると食生活改善にとりかかる。得意の料理の腕を振るい、3種類の油を使うなど食事管理を徹底。古武術などを取り入れたトレーニングも並行し、筋量を増やしながら1・2キロの脂肪をそぎ落とす。鋼の心と同様、鋼の体を構築。ソチ五輪後の試行錯誤に間違いはなかった。

 今日11日は1000メートル。今季はW杯出場4レースで、表彰台に3度絡んだ。2日連続の金メダルも視野に入るが、落ち着きを保つ。「思い切りはじけるのは五輪まで取っておく」。1年後の世界の頂点まで、すべてが通過点にすぎない。【田口潤】

<小平奈緒(こだいら・なお)アラカルト>

 ▼1986年(昭61)5月26日、長野県茅野市生まれ。165センチ、61キロ。

 ▼3歳で姉についてスケートリンクに初めて入ると、勝手に立って歩き滑り始めた。保育園から他の子を圧倒していた。

 ▼長野五輪 当時は小学5年。男子500メートル金メダルの清水宏保の滑りを見て鳥肌が立った。女子500メートル銅メダルの岡崎朋美にも憧れた。

 ▼研究熱心 伊那西高から信州大。卒論は「有力選手のカーブワーク動作解析の研究」。大学では教員免許も取得。同大教授でもある結城コーチと今でも滑りを徹底研究している。

 ▼実績 06年にW杯初参戦。同大卒業後、09年から相沢病院に所属。10年バンクーバー五輪では団体追い抜きで銀メダル、1000、1500メートル5位。14年ソチ五輪は500メートル5位。今季W杯500メートルは出場6レースで全勝。