羽生結弦、完璧な史上最大の逆転に「最高のご褒美」

フリーの演技でジャンプの着氷後、力強く拳を握りしめる羽生(撮影・鈴木みどり)

<フィギュアスケート:世界選手権>◇1日◇フィンランド・ヘルシンキ◇男子フリー

 王者が大会史上に残る大逆転劇で強さを証明した。ショートプログラム(SP)5位の羽生結弦(22=ANA)が、フリーで自身の世界歴代最高を塗り替える223・20点をたたき出し、合計321・59点で3季ぶり、日本男子としては初となる2度目の優勝。上位4人が300点超のハイレベルな戦いを、今季初めて4度の4回転を成功させる完璧な演技で制し、18年平昌五輪の連覇へ弾みをつけた。

 羽生が史上最高の演技で10・66点差をひっくり返した。曲に合わせ「自分が風だったり、川の中にどぷんと入ったり」。まるで自然の中にいるように、演技に入り込んでいた。1つ目の4回転ループ、次の4回転サルコー。静まる会場に着氷音がシャッと響くたびに大歓声が後に続く。後に待つのは今季これまで5戦すべて失敗している4回転サルコー-3回転トーループの連続技。美しく2つをまとめ「鬼門」を突破すると、続く4回転トーループも成功。4回転ジャンプ4本すべてで2点以上の加点をもらい、今季初めてノーミス。滑り終えると、ドヤ顔で会場を見回した。

 昨季のGPファイナルで樹立した歴代最高の219・48点を自ら3・72点更新した。高難度の4回転ジャンプを跳ぶライバルがひしめく中、1番の敵は自分だった。「一番とらわれているのは過去の自分。やっぱり220(フリー)330(合計)110(SP)という数字にとらわれて、すごく怖くてここまでやってきた。何とか1点でも、0・5でも、0・1でも超えてくれ、と思っていました」。昨季の自分を超える得点と内容に「最高のごほうび」と喜びをかみしめた。

 幼いころ、戦隊もので好きなキャラクターは真ん中の赤いヒーロー。根っから負けず嫌いの羽生には、真ん中でなければ、すべて負けだった。カナダ・トロントにある練習拠点「クリケット・クラブ」の壁にある15、16年王者フェルナンデスのプレートを見る度、王者奪還を思い描いた。2位だった今年2月の4大陸選手権でも、表彰台1位にいるチェン(米国)を見つめ「うらやましい、勝ちたい」と悔しさを募らせた。SP5位からの優勝は世界選手権最大で、自身にとっても3年ぶりの逆転勝利。執念で3季ぶりの王者に返り咲いた。

 現在、チェンや宇野は羽生が出来ない難しいジャンプ、4回転ルッツや同フリップを軽々と跳ぶ。それでも、完璧にやれば勝てる自信が「ある」と言い切る。この日の技術点126・12点も歴代最高。質も含めた技術で、トップに君臨していることをあらためて証明した。「4回転4本の構成をやり遂げられたという自信」を胸に、いよいよ五輪連覇のシーズンへ向かう。【高場泉穂】