桃田賢斗、喜怒哀楽は封印 秘める思いと肉体の変化

男子シングルス1回戦 第2ゲーム、必死にシャトルに食らいつく桃田(撮影・足立雅史)

<バドミントン・日本ランキングサーキット>◇27日◇埼玉・さいたま市記念総合体育館◇男子シングルス1回戦ほか

 違法カジノ店での賭博行為で無期限の試合出場停止処分が科されていたバドミントン男子の桃田賢斗(22=NTT東日本)が416日ぶりに再起した。昨年4月6日のマレーシア・オープン以来の実戦で和田周(26)と対戦。わずか27分、2-0のストレートで圧倒した。謹慎中は競技が続けられる感謝を忘れず、嫌いだった走り込みと筋トレに励み、体重は約3キロ減。天性の技術だけでなく、心技体を備えた「ニュー桃田」が、3年後の東京五輪へ、第1歩を踏み出した。

 笑顔も雄たけびもない。プレー中に喜怒哀楽を前面に出した、かつての桃田の姿はない。416日ぶりの実戦。勝負が決まると、軽く左拳を握る。遠慮気味に感情を初めて表に出すと、四方の客席に頭を下げた。「皆さんに支えられてコートに立てた。1点より1球1球を大切にプレーできました」と復帰の喜びをかみしめた。

 わずか27分の完勝も心中はブランクと格闘した。前夜は午前0時まで眠れなかった。「最後まで余裕はなかった。気持ちはいっぱいいっぱい」。そんな状況でも左の強烈なスマッシュと、ネット間際にシャトルを落とす「ヘアピンショット」など、世界トップクラスの技術を見せた。

 昨年4月、違法賭博の処分を受けた。6月まではラケットを握らない生活。先が見えない中でも引退を考えたことはない。逆に「羽根をつくのが好きだ」との思いが募った。練習を再開すると、技術に頼り切った過去の自分を反省。嫌いだった走り込み、筋トレの量を増やした。「支えてくれた皆さんのために頑張る。中途半端ではだめ」と肉体強化に励んだ。

 昨年10月からは各地のバドミントン教室に参加。小学生から「東京五輪で金メダル」との手紙をもらうなど交流を深めた。1月、チームで今年の目標を出し合った。「子供たちに競技の楽しさを伝えるなど社会貢献をしたい」と自らの復帰の件は触れなかった。バドミントンができることへの幸せと感謝の気持ちが心の成長を促していた。

 「あきらめない姿勢など、コートの中、外での立ち居振る舞いで、信頼回復をしていきたい」。復帰戦では衰えぬ技術を披露し、3キロ減の肉体にスピードアップを実感した。不祥事でどん底に落ちた22歳は、心技体をそろえた「ニュー桃田」になって戻ってきた。【田口潤】

 ◆賭博問題経緯 昨年4月6日、桃田、田児の違法賭博が判明。同8日にNTT東日本から田児が違法カジノ店で約1000万円負けたこと、桃田も約50万円負けていたこと、バドミントン部の他6人も賭博行為を行っていたことが発表された。日本バドミントン協会は、田児に無期限登録抹消、桃田に無期限競技会出場停止、他6人に6カ月か1年間の出場停止。NTT東日本は田児の解雇、桃田の出勤停止30日、部の半年間の対外活動自粛などを科した。日本協会は今年3月に桃田の反省と更生を考慮し処分解除を決めた。