白井健三の躍進秘話、内村航平から「お守りいる?」

白井健三(16年8月15日撮影)

 予選4位の白井健三(21=日体大)が86・431点で3位に入り、個人総合で自身初の表彰台となる銅メダルを獲得した。日本勢としては同種目で03年大会から11大会連続の表彰台。左足首負傷でエース内村航平が離脱するという大ピンチでメダルを死守し、オールラウンダー大国ニッポンの面目を保った。白井の世界選手権でのメダル数は通算6個目(金3、銀2、銅1)。優勝は肖若騰(中国)だった。

 “師匠”と仰ぐ内村の思いを力に変え、重圧をはねのけた。白井は個人総合で出る初めての世界舞台とは思えない堂々たる演技を次々と披露した。最初の床運動では冒頭に入れたH難度の「シライ3」(後方伸身2回宙返り3回ひねり)や、最後の4回ひねり技「シライ/ニュエン」を着地までピタリと決めて、15・733の高得点をマーク。24人中トップのスコアでロケットスタートを切った。

 苦手のあん馬とつり輪で順位を下げたが、そこは想定済み。4種目の跳馬で床運動に続いて全体トップの15・000を出すと、最後の鉄棒では予選で落下した「屈身コバチ」を鮮やかに決め、暫定2位で演技を終えた。その後、中国選手に抜かれて3位になったが「よく頑張ったと思う」と自ら褒め言葉が出るほどの出来栄え。オールラウンダーへの進化を証明した。

 孤軍奮闘となった戦いの中で躍進の源となったのは、宿舎で同部屋の内村から決勝前にもらった「ゼッケン」だ。

 「お守り、いる?」

 「ほしいです」

 手渡された今大会のゼッケンを小さく折りたたみ、普段から日体大の同学年同士で持っている缶バッジと一緒に透明なケースに入れ、バッグの中に忍ばせた。これが心の支えとなり、全6種目ノーミスで演技を終えた。

 「航平さんに安心してもらいたいという一心だった。僕が結果を残せば、休んで良かったかなと思ってもらえる」

 国内合宿では個人総合の極意を盗み取ろうと、積極的に話しかけた。内村は元来、黙々と練習するタイプだが、白井は「今のうちに吸収しなければいけない。空気を読まないのも強さだと思って」と、どんどん質問した。その心がけがあったからこそ、1人でも戦えた。

 表彰式後はスタンドで応援した内村のところに行き、首にメダルを掛けた。「俺のメダルじゃない、と言われたけど、航平さんがいたら僕は4位ですからね」と笑い、勝負となる来年以降の戦いに思いをはせた。【矢内由美子】