カー女子銅の要因をAI分析 ミス決着ではなかった

平昌五輪 女子カーリング3位決定戦・日本-英国 第9エンド、ショットを放つ藤沢。左は吉田夕、右は鈴木(共同)

 平昌五輪(ピョンチャンオリンピック)の女子カーリングで、日本のLS北見が銅メダルを獲得した要因は、相手のミスではなかった。3位決定戦で英国を5-3で下した一戦を、北大大学院情報科学研究科でデジタルカーリングをプレーするAI「じりつくん」の開発を行う山本雅人教授(49)が分析。AIがはじき出した勝率は、ラストショットの前から日本有利の数字が出ていた。【取材・構成=西塚祐司、浅水友輝】

 先攻のLS北見が4-3で迎えた第10Eの最後。英国のスキップ、ミュアヘッドが逆転を目指してラストショットを放った。狙った軌道がずれ、日本の石が円心に残り、勝利が決まった。相手のミスショットで決着という見方で捉えられた。だが「じりつくん」の分析は異なっていた。

 山本教授 みなさん信じられないと思いますが、相手が投げる前で日本の勝率は74%。もし、1点を狙っても日本の勝率は78%だったんです。

 あの直前、LS北見のスキップ藤沢の2投目は手前の自軍ストーンに当たり狙いとは外れた。サード吉田知に「(相手に)簡単なショットにしちゃったね」と言った。対して、膨大な局面を学習するなどし豊富なデータに裏打ちされる「じりつくん」は、日本優勢の数字をはじき出した。

 山本教授 この配置になったことで相手は2点を取りにきた。人によっては70~80%近く成功すると思う場面。検証動画もネットに上がってますが、簡単に2点は取れないショットだった。結果的にですが藤沢選手のショットは悪くはなかった。第10Eの始まりは、日本の勝率は59%だったがチームの戦略で数字はどんどん上がっていきました。

 流れを引き寄せたのは藤沢の“完璧ショット”だった。同点で迎えた第9Eの始まりで日本の勝率は37%と劣勢だった。だがガードストーンの裏側に回った藤沢の2投が局面を変えた。スチールし、初めてリードを奪った。

 山本教授 ここにしかないポイントに置けたことで勝率がグッと上がった。AIで石の位置を少しずらして計算したが、藤沢選手のショットが一番良い数字。分析する中で最高レベルで相手にかなりプレッシャーをかけることができた。

 AIソフトは氷の状況を考慮しておらず、今後の課題はある。

 山本教授 まだ競技に直接、実用されていない。今後、AIの技術が人間の発想や考えのサポートになれれば良いと思います。

 ◆山本雅人(やまもと・まさひと)1968年(昭43)7月30日、札幌市生まれ。札幌旭丘-北大-同大学院修了後、現在に至る。専門は知能機械学や知能情報学。趣味のボードゲーム「バックギャモン」の友人に誘われたことからカーリングを始め、チーム「Backgammon」ではスキップを務める。

 ◆じりつくん 15年、科学研究費助成事業の対象「カーリングを科学する」プロジェクトの開始に伴い、北大の山本研究室で開発中のカーリングAI(人工知能)。AI同士を対戦させ、競技データの分析とカーリング戦術関連知識を構築する。17年冬季アジア札幌大会から独自の分析を開始。今大会で初めて成果をメディアに公表した。