【THE GAME〈1〉2011年4月29日:楽天3―1オリ】選手とファンと虹
新型コロナウイルスの感染拡大により、2020年のプロ野球は開幕が3カ月も遅れました。毎日野球場に行き、試合を見て、取材する。仕事が完全にストップした記者たちは、何げなき日々の尊さに初めて気付かされました。スコアブックを引っ張り出し、忘れられない試合をプレーバックする企画「THE GAME」を立ち上げ。パソコンに向かいながら、野球の持つ力を再確認します。(2020年4月29日掲載。所属、年齢などは当時。敬称略)
プロ野球
咲き誇る笑顔
東北に球音が戻った9年前の4月29日は、試合前にハイライトがあった。
練習の取材を終え、同僚と早めの昼食を取ることに。4月の仙台らしからぬ人いきれを縫って歩いていると、隣の古川記者が泣いていた。
「どうしたの」
「みんな、いい笑顔をしていますね。よくここまで戻ってきたなと」
すれ違う顔を見ているうちに感極まったという。球場前の「桃山食堂」でそんな話をして、自分は特設ステージに向かった。
スポーツ各紙の番記者が、持ち回りでよもやまトークをする球団の企画。たまたま順番が当たっていた。
何の気なしに壇上に立った瞬間、古川記者の涙を理解した。穏やかで優しい笑顔、笑顔、笑顔。クリムゾンレッドをまとい、競うように咲き誇っていた。
野球を支えに耐えに耐え、こんな顔をする東北人。強いな。辛うじて「皆さんと今日、ここで野球を見る自分は幸せだと思いました。感謝して取材したいと思います」と振り絞った。
1999年入社。整理部―2004年の秋から野球部。担当歴は横浜(現DeNA)―巨人―楽天―巨人。
遊軍、デスクを経て、現在はデジタル戦略室勤務。
好きな取材対象は投手、職人、年の離れた人生の先輩。好きな題材は野球を通した人間関係、カテゴリーはコラム。
趣味は朝サウナ、子どもと遊ぶこと、PUNPEEを聴くこと。