【THE GAME〈5〉2009年10月10日:広島1―0巨人】緒方らしい引退

秋の野球場には、陳腐な表現が申し訳なくなる時間が流れています。凜とした空気と高い空。優勝争いをしていれば緊張がブレンドされ、そうでなければ別れの郷愁が漂います。ベテラン記者が忘れられない、広島東洋カープらしさを貫いた大選手の引退試合。(2020年5月21日掲載。所属、年齢などは当時。敬称略)

プロ野球

◆緒方孝市(おがた・こういち)1968年(昭43)12月25日、佐賀県生まれ。鳥栖から86年ドラフト3位で広島入団。俊足強打の外野手としてチームをけん引する。95年の10試合連続盗塁は、現在もセ・リーグ記録。95~97年盗塁王。95~99年外野手でゴールデングラブ賞。09年現役引退。通算1808試合、1506安打、241本塁打、725打点、打率2割8分2厘、268盗塁。現役時代は181センチ、80キロ。右投げ右打ち。15年広島監督に就任し、16年からセ3連覇。19年に退任した。

家族と。緒方も、かなこ夫人もいい笑顔

家族と。緒方も、かなこ夫人もいい笑顔

三塁打直後に突入…届かない

引退試合はグッとくる。「冷静であれ」と自戒する野球記者であっても、この日ばかりは感傷的になってしまう。

プロ野球を取材して18年目だが、秋晴れのマツダスタジアムが忘れられない。

1―0でリードの8回1死、走者なし。広島緒方孝市がプロ最終打席に立っていた。

巨人ゴンザレスの初球だ。外角速球を打ち、右中間を破る。40歳は一気に三塁へ。両足はもつれて頭から滑り込む。しゃがんだまま立てない。負傷していた腰は激痛に襲われていた。

直後、次打者で捕手が後逸すると、今度は本塁へ。だが足はもたつき、ヘッドスライディングも本塁に届かない。あえなくタッチアウト。限界だった。

最終打席で三塁打、ヘッドスライディング。三拍子の肩書きにふさわしい幕引き

最終打席で三塁打、ヘッドスライディング。三拍子の肩書きにふさわしい幕引き

1979生まれ。京都府出身。2003年入社で阪神を中心にカバー。
広島担当、プロ野球遊軍をへて、2021年からアマチュア野球担当。
無類の温泉好きで原点は長野・昼神温泉郷。