ドラ1だけで730勝638S 89年は本紙占いも大当たり 日刊ドラフト全史(7)

日刊スポーツは1946年(昭21)3月6日に第1号を発刊してから、これまで約2万8000号もの新聞を発行しています。昭和、平成、そして令和と、それぞれの時代を数多くの記事や写真、そして見出しで報じてきました。日刊スポーツプレミアムでは「日刊スポーツ28000号の旅 ~新聞78年分全部読んでみた~」と題し、日刊スポーツが報じてきた名場面を、ベテラン記者の解説とともにリバイバルします。懐かしい時代、できごとを振り返りながら、あらためてスポーツの素晴らしさやスターの魅力を見つけ出していきましょう。

7回に渡って送るドラフト特集の最終回は、最も豊作だったとされる1989年(平元)ドラフト会議。野茂英雄投手(新日鉄堺)を史上最多の8球団が1位指名した年だ。指名された72人のうち、名球会入りが4人、メジャリーガーが4人、NPBの監督になったのが4人と列挙するだけですごい。一方で意中の巨人にふられた元木大介内野手(上宮)が1浪するなど、記録にも記憶にも残るドラフトだった。

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1989年11月26日、ドラフト会議で8球団が野茂英雄を1位指名した

1989年11月26日、ドラフト会議で8球団が野茂英雄を1位指名した

1位投手9人の成績を合計すると…

1989年こそドラフト豊作年とされるが、特に驚かされるのが1位指名された投手9人の生涯成績だ。

当時の紙面を紹介する前に、メジャー入りした野茂(新日鉄堺→近鉄)、佐々木主浩(東北福祉大→大洋)、小宮山悟(早大→ロッテ)ら、この9人の日米通算成績を合計した、紙面にも載せたことのない表を紹介する。3557試合で730勝638セーブ。どれぐらいすごいのかは、同じように9人の投手が指名(8球団が指名してロッテが交渉権を獲得した亜大・小池秀郎は拒否)された90年ドラフトの生涯成績は1861試合272勝103セーブ。長谷川滋利(立命大→オリックス)の日米通算102勝、湯船敏郎(本田技研→阪神)の60勝などが目立つが、のちに近鉄入りする小池の51勝を加えても272勝にとどまる。

一方の89年ドラ1入団野手は2人合わせて100安打。成績面では振るわなかったが、記憶には残った。

2人で100安打でもパンチがあった?

佐藤和弘(熊谷組→オリックス)は時代遅れ? のパンチパーマとユニークな語り口で「パンチ佐藤」の愛称で人気者に。5年目の94年に登録名を「パンチ」にした。仰木彬監督が鈴木一朗外野手を「イチロー」として売り出すための同時改名だったが、イチローはその年に210安打を放って大ブレーク。故障がちだったパンチは、オフに引退してタレントに転じると、バラエティー番組で引っ張りだこになった。当時、当社の芸能紙面でパンチの連載を企画したが、多忙なため丁重に断られたことを思い出す。

巨人を逆指名した元木と大森の明暗

もう1人の野手は大森剛(慶大→巨人1位)。同じく巨人を逆指名した元木との明暗が、ドラフト翌日11月27日のフロント面に掲載された。

1面がダイエーに1位指名された元木、最終面が希望がかなった大森だった。慶大3年春のリーグ戦で3冠を獲得するなど強打の大森は早くから巨人志望を打ち出していた。しかし、甲子園通算6本塁打の元木が台頭。巨人への憧れを口にした。巨人は同時獲得を目指して元木を1位、大森を2位で指名するのではと見られていた。大森はこれに反発。巨人の1位指名以外は、外れ1位でも東京ガス入りを公言した。

当日の各紙の報道も同様だったが、ふたを開けると巨人は大森を単独指名。元木は野茂をくじで逃したダイエーが1位指名した。会見で時折目頭を押さえた元木は、翌日学校を休むほど落ち込んだ。就任したばかりの田淵幸一監督は、自身も巨人志望ながら阪神に指名された21年前を振り返りながら「野球を愛しているなら、自分の力を試してもらいたい」とラブコールを送った。紙面のトーンは、元木と上宮サイドの困惑を伝えながらも、最終的にはダイエー入団に落ち着くことをにおわせた。ダイエーサイドもその後の交渉で、好感触を口にしたが、元木はかたくなだった。12月中旬には「何年かかっても巨人に入りたい。ご縁がなかった」とダイエーに伝えた。

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編集委員

久我悟Satoru Kuga

Okayama

1967年生まれ、岡山県出身。1990年入社。
整理部を経て93年秋から芸能記者、98年秋から野球記者に。西武、メジャーリーグ、高校野球などを取材して、2005年に球団1年目の楽天の97敗を見届けたのを最後に芸能デスクに。
静岡支局長、文化社会部長を務め、最近は中学硬式野球の特集ページを編集している。