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特別連載 THE OTHER SIDE




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福原愛 北京まで1年半 あえて「改革」しっかり「結果」

卓球全日本選手権 女子シングルス4回戦で強烈なスマッシュを放つ福原愛=07年1月19日(撮影・鹿野芳博)卓球全日本選手権 女子シングルス4回戦で強烈なスマッシュを放つ福原愛=07年1月19日(撮影・鹿野芳博)

 試合後の静まり返った体育館に、元気な声は突然響いた。「お疲れさまでした!」。背後から唐突に発せられた、必要以上の大きな声。驚いて振り返ると、帰り際の福原愛(18)がいたずらっぽく笑っていた。2月10日のジャパントップ12。準優勝に終わっても、卓球の天才少女には明るさと自信が戻っていた。

 「できれば振り返りたくない」。暗い表情で話す3週間前の全日本選手権は、無残だった。過去ベスト8が最高のシングルス。優勝候補に挙げられて「今度こそ」と挑んだ8度目の挑戦も、準々決勝の1つ手前で藤井寛子に阻まれた。13歳で4強入りした石川佳純の後じんも拝した。「最低まではいかないけど、良くはなかったという感じです」。敗戦後に語った言葉に力はなく、淡々と話す表情に、生気はなかった。

 卓球では、実力以外に相性や慣れも大きい。福原がバックハンドで使用するラケットのラバーは、微妙な変化がかかる分、スピードが出ない。世界では、用いる選手がまれなために慣れられていないが、国内には何人かいる。そのため「手品で言えば(国内では)種明かしされている状態」と日本女子の近藤欽司監督。世界ランキング日本人トップでも、日本で勝てない理由の1つがここにあった。

秋田・稲住温泉で行われたミニ合宿の合間にミニチュアダックスフントの愛犬チャピーとたわむれる福原愛=07年2月6日(撮影・今村健人)秋田・稲住温泉で行われたミニ合宿の合間にミニチュアダックスフントの愛犬チャピーとたわむれる福原愛=07年2月6日(撮影・今村健人)

 世界を見据えれば、このままでも決して悪くはなかった。しかし2月上旬、雪深い秋田・湯沢の町で、福原は意を決した。力強さを求めてラバーを変え、全日本史上最年少優勝者の「元祖天才少女」佐藤利香コーチにフォームを改造してもらった。競技人生15年間で初めての大改革。北京五輪が1年半後に迫ったなかでの「賭け」でもあったが「失敗したらしたで、しょうがないじゃないですか」。「考えるより行動派」という前向きなB型は、自分を信じて取り組んだ。思い通りにならないと泣きだした「愛ちゃん」の姿は、もうなかった。

 改造後、わずか10日で臨んだジャパントップ12での準優勝は、方向性が間違っていなかった表れでもあった。準決勝では、藤井に借りも返した。「変えてから初めての試合で不安は少しあったけど、決勝まで行けて、結構いい感じかなと思いました」。生まれた余裕が、元気あふれる言葉につながっていた。

 4月からは早大に進学する。2度目の五輪も、すぐにやってくる。それでも、福原の体に流れる時間の速度は、少しも変わらない。「過去を振り返るより、次に向かって行きます。次は…(青森山田高の)卒業試験があるんですよ。絶対頑張らないと!」。できることからコツコツと。マイペースのまま、福原はしっかりと歩んでいる。【今村健人】

今村 健人いまむら・けんと
浦和市(現さいたま市)生まれ。03年入社。スポーツ部で大相撲を経て、現在はフィギュアスケート、卓球などアマチュアスポーツを担当。30歳。

※本連載は今回で最終回です



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