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新弥のDAYS'

2006年10月15日更新

女医ラリーストの冒険

浜口敬子さんのファラオラリー報告

 日曜日付の「スポーツ&アドベンチャー」で9月にご紹介した消化器系外科医の浜口さんが、予定通りエジプトのファラオラリーに参加してこのほど帰国した。

 茨城県・保内郷メディカルクリニックの外科の先生で、アフリカの辺境医療に従事する夢を持っている。病院で患者を待つのではなく、自分で車を運転して奥地を訪ね、未開地の人々を助けたいという。ラリー挑戦もこの夢へのステップだった。

 競技部門ではなく、ラリーと同じコースを体験試走するフリーライドに参加した。

 以下はその報告メールと写真、全文をご紹介したい。



ラリースタート前のポディウムにて
ラリースタート前のポディウムにて

 途上国での巡回診療を行う際のドライビングテクニックを学ぶ一環として、10月3日より7日間に亘りエジプトで開催された、ファラオラリーのレイド部門に参戦してきました。

 ラリー出発前は、ラリーの一日での総走行距離や競技区間の距離を聞いただけで、それは自分にとって未知の世界ですので、本当に自分にそんな事ができるのだろうかという不安で一杯でした。そんな不安を抱えながら、スフィンクスが鎮座するギザのピラミッド前からラリーがスタートしました。

 エジプトといいますと、砂のイメージしかなかったのですが、このラリー中には実に変化に富んだ地球の姿を見せてくれました。ある時はアメリカのモニュメントバレーを思い出させるような巨大な岩層群や、アイスクリームのカップを引っくり返したような、大きな円形の砂山、また延々と続く石畳や、タイヤをパンクさせんとばかりに地表から突き出ている大きな岩続きの大地、更に足元から飲み込まれてしまいそうなくらいに重い石灰の砂等、実にドライバーを飽きさせずに次から次へと“腕試しの試練”を与えてくれました。



砂漠走行中
砂漠走行中

 これらの景色は、徐々に、というよりは突如眼前に現れ、心の底から沸き上がる、ウワーっという感嘆と共に、思わずその絶景に見惚れてしまいそうでした。しかし観光目的ではありませんしレース中ですので、車を停めて写真を撮る訳にはいきません。暫くその景色に見惚れていたい衝動を抑えつつ、そのままアクセルを踏み続けました。

 反面、360度見渡す限り障害物が何もなく、一面砂の大地という場面では、アクセルを踏んでも踏んでもその景色は全く変化しませんので、自分の目が寄ってきてしまうような感覚があり、スピード感も全くなく、一体自分の車は動いているのだろうか、停まっているのだろうか、というような錯覚に襲われたりもしました。



ラリー主催者のジャッキーと。彼とは来年の競技部門での参戦を約束し、お別れをした。
ラリー主催者のジャッキーと。彼とは来年の競技部門での参戦を約束し、お別れをした。

 この様に、遠くに絶景がそびえる大地もあれば、時に突如眼前に30m近い絶壁が出現し、超えていかなければならない場面もありました。その絶壁の頂点の先は直滑降に近い下りとなっており、微妙なアクセルワークと車両コントロールが要求されました。正直、眼前の障害物に対し、多少なりとも恐怖を感じましたが、そういった事に怯んでいる余裕はありませんでした。何故なら怯んでいる間に車は砂に埋もれてしまいますので、とにかくアクセルを踏み、車を前に進める他はありませんでした。しかし恐怖を克服する為にアクセルを踏み過ぎますと、逆に砂丘の頂点からジャンプしてしまいますので、恐怖の中にも冷静に車両をコントロールしていく技術が要求されました。



ゴール後のピラミッドの前で
ゴール後のピラミッドの前で

 競技区間を終え、その日のビバークへ向かう途中には、必ず小さな村を通過します。こと、現地の子供達はラリーカーを見つけると無邪気に手を振り、近寄ってきます。車を停めると必ずお菓子やTシャツ等をねだられ、本当は彼らに何かをあげたいけれども、全員に行き渡るだけの量を持っていない為にあげることのできないジレンマを感じました。結果、私は彼らの前を素通りする意外仕方ありませんでした。

 対照的に暗闇の中で、前方にピカピカと光るビバークの明かりを見つけた時には、ビバークがお疲れさん、と言って自分達を迎えてくれるような、そんな温かみを感じました。しかし村の中のビバークでは、我々の空間だけは特異であり、こんな貧しい地域に大金を担いでやってきた我々が入り込み、変化に富んだ食事を口にし、また高価な車両の整備を行っている自分達は、現地人からしてみますと彼らの生活を破壊しているような気がして少し心が痛む思いをしました。



 今回の参戦を通して、改めて国際ラリーのレベルの高さを実感したのは勿論のこと、エジプトの首都から離れた奥地には、貧しい環境で生活する人々が沢山いる事を改めて実感しました。

 やはり、私はオフロードの運転技術を磨いて、途上国で巡回診療がしたいです。そういった気持ちを更に強くして、エジプトを発ちました。



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プロフィル
後藤新弥(ごとう・しんや) 日刊スポーツ編集委員、60歳。ICU卒。記者時代は海外スポーツなどを担当。CS放送・朝日ニュースターでは「日刊ワイド・後藤新弥のスポーツ・online」(土曜深夜1時5分から1時間。日曜日の朝7時5分から再放送)なども。
 本紙連載コラム「DAYS’」でミズノ・スポーツライター賞受賞。趣味はシー・カヤック、100メートル走など。なお、次ページにプロフィル詳細を掲載しました。
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