このページの先頭



ここから共通メニュー

共通メニュー


ホーム > スポーツ > 新弥のDAYS'



新弥のDAYS'

2007年06月24日更新

美人女医、再びファラオへ

<辺境医療を目指した自己訓練の一環>

 将来、へき地の人々のための医療に従事したい。その準備の一環として、自分1人でも奥地にでも入っていける車の運転技術を身につけたい。

 濱口敬子さんはそんな気持ちからオフロードレースやラリーを始めた外科医だ。

 昨年パリダカと並ぶビッグレース、アフリカのファラオラリーの一般クラス(非競技)に初挑戦した。今秋はいよいよ本格的なチャレンジに出るという。

 その濱口さんから、メールが届いた。

 準備にもさまざまな困難が次々に現れるが、1つ1つ突破しているらしい。

 再びファラオへ。

 6月に行った初走行の写真とメール全文を紹介したい。

 

 ***********

 車とは無縁だった自分が車に興味を持ち、4駆のモータースポーツ活動を始めて4年が過ぎました。「途上国での医療活動」と「4駆のモータースポーツ」が結び付き、私の夢は「簡易医療設備を備えた車を自分で運転し、砂漠の奥地で生活をする人々に医療を提供したい」というものに固まりました。

 2年前まで3年間、国内でトレーニングを積みました。初年度はオフロードの4駆トライアル競技に参戦し、起伏の激しい路面での、車両の操作方法を学びました。2年目と3年目は更にレベルアップをめざしてオフロードの耐久レースに参戦し、車を壊さずに走ることや、また高速走行時の車両のコントロール方法を学びました。決して表彰台に上がれるような成績は残していませんが、その時々で自分の課題はクリアし、ステップアップを重ねてきたつもりです。

 昨年はより自分の夢の実現に近付けるようにと、エジプトで開催されたFIA(国際自動車連盟)公認のファラオラリーに参戦しました。

 ファラオラリーは毎年1月に開催されるパリ・ダカールラリーの前哨戦として、ワークスチームだけでなく多くのプライベーターが参加する耐久ラリーです。エジプト全土約3000キロを7日間で走破(競技区間は約2600キロ)します。

 トレーニングの舞台を国内から海外に移したことで、私の世界も大きく広がりました。昨年はトレーニングとともに、世界選手権ラリーの雰囲気を経験することを目的として一般部門に参加して、まず国際耐久ラリーの実際を体験しました。

 今後自分が夢をかなえていくために何をしなければならないか、という課題探しのための参戦でもあったのです。

 昨年はラリーのトレーニングコーチ兼ナビゲーターとして、現役国際ラリースト・菅原照仁氏に同乗をお願いしました。現地ではこれまでの国内でのトレーニングとはまったく異なる次元のレクチャーを受けました。

 実戦では最終日の前日午後、砂漠の真ん中でクラッチが焼きつき、立ち往生しました。マシントラブルというより、当時の自分の運転技術のすべてを表すトラブルでした。

 暗闇の中で、その日のビバークへと向かう車両を照らしてくれた真っ黄色の、大きな真ん丸い月を今でも忘れることができません。

 満月は、その時点での自分の課題の大きさをも冷酷に、でも優しさを込めて映し出しているようでした。その時、思ったのです。「もっともっと、過酷な路面状況下で車両に負担を掛けない走り方を取得したい。それが、将来途上国で巡回診療をする際に自分が必要とすることだ」。

 その瞬間から、心は再びファラオラリーに参戦することに向いていました。振り返れば、今回の準備はその時始まったのです。

 帰国後、すぐに07年のファラオラリー参戦の具体的な計画を立てました。まず大きな課題として、FIAの細かな車両規定に合わせた競技車両の作製と、国際C級ライセンスの取得がありました。

 運よく中古のラリーカーを譲渡してもらえる話があり、少々悩んだもののこの車に決めました。トヨタのランドクルーザー、プラド120です。参戦車両の決定とともに、担当メカニックも決定。早速、メカニックのもとへ車両を搬入し、整備を始めてもらいました。

 プラドは中古ですが車両自体の完成度は高く、評価の安定した車です。ただ海外ラリーに数回参戦した経歴もあり、予想以上に酷使された状態でした。車両整備に関しては実績のあるメカニックなので、彼に安心して一任しています。

 国際C級ライセンスの取得にはJAF公認競技会に規定回数参戦し、実績を作ることが必要です。外科医としての仕事がら、なかなか時間が作れず、現在も週末に開催される競技会に参戦している最中です。

 でも頑張っているのは私個人だけではありません。現在周囲では、私の夢の実現のために大勢の人間が動いてくれています。人はわがままなもので、時間に追われ、1年があっという間に過ぎ去ろうとするのに気が付くと、時々それらの厚意を逆にプレッシャーと感じることも起きてしまいます。だからこそ、それらの厚意に本当の意味で恩返しをするためにも、必ずこの夢を実現したいと思うのです。

 今年の参戦目標は「車を壊さずに、人・車ともに無事にその日のビバーク地点にたどり着くこと」。これを毎日積み重ねることにより、「ファラオラリー完走」という結果がついてくるはずです。もちろん不安はない訳ではありませんが、勇気をもって初めの1歩を踏み出してみようと思っています。

 濱口敬子さん ホームページ=http://www7a.biglobe.ne.jp/~dewkeiko



Thanks
 ご愛読に感謝申し上げます。すべてにご返信ができないため、整理の都合上、nikkansports.comの本欄、マスター及び筆者個人アドレスでは、コラム内容に関するご感想などのEメールは、現在すべて受付を中止しております。お詫び申し上げます。下記にご郵送ください。
 また、他ページ、フォーラムなどへの転載は、引用を含めて、お断りします。ご協力に感謝いたします。
 【郵送宛先】 郵便番号104・8055 日刊スポーツ新聞社 編集局 後藤新弥
プロフィル
後藤新弥(ごとう・しんや) 日刊スポーツ編集委員、61歳。ICU卒。記者時代は海外スポーツなどを担当。CS放送・朝日ニュースターでは「日刊ワイド・後藤新弥のスポーツ・online」(土曜深夜1時5分から1時間。日曜日の朝7時5分から再放送)なども。
 本紙連載コラム「DAYS’」でミズノ・スポーツライター賞受賞。趣味はシー・カヤック、100メートル走など。なお、次ページにプロフィル詳細を掲載しました。
【 詳細プロフィルへ >> 】


このページの先頭へ