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新弥のDAYS'

2008年01月24日更新

科学トレか「こそ練」か

<機器による筋力トレに依存したくない>

 東京・西が丘に「ナショナルトレーニングセンタ-(NTC)」が正式オープンしました。

 すでに使用されている国立科学スポーツセンターに隣接する形で、トップアスリートのための最新科学のトレーニング基地としてあらためてマスコミデビューしたわけです。

 こうした施設は「何ができる」というPRではなく、実際に「どう使われているか」がすべてで、科学度や先端度が問題なのではないと思います。

 海外でも「あまりなじみのない先端科学機器を置いても、競技の指導者がそれを使おうとしない。少し古いぐらいの設備で、十分なスタッフを配置することが利用率アップの大原則」という声をしばしば聞きます。

 しかし一方日本では、大学や公的な施設にはあまり高度な機器がまだまだ導入されておらず、負荷だけでなく筋肉運動自体の速度をオンタイムで表示してワット数を出すようなマシンや概念が行き渡っていません。サッカーやフットボールの強豪チームとの、この側面での差異は想像以上に大きなものあります。

 NTCのような施設が、欧米のトップアスリートがすでに日常的に使用しているような科学トレ・マシンをさらに積極的に導入して、啓蒙する必要もあるはずです

 そうした点でも、大きな期待が寄せられています。

 もっとも、「NTCで科学トレを受ければ体力強化はもう大丈夫」といった安易な概念や「へんな筋トレをすると動きが鈍くなるので」といった間違った拒否反応に、競技関係者やスポーツファンは十分に留意する必要があるかもしれません。

 マシンを取り入れたトレーニングでは、どうしても使用者が「目盛り」に意識を集中し、自分では意識しないうちに「何キロあげた」「やつより強い負荷を掛けた」といった数値主義、ノルマ主義に陥って、肝心の「強く鋭い動きができる筋肉」作りの意識や感覚を失ってしまうことも少なくありません。

 どんな強化運動でも、微細な感覚をとぎすませ、自分の競技での筋肉運動をどこかで意識しながら、「自分の感覚をフィードバックして自分で自分の筋肉を強くする」といった意欲が原則的に必要です。

 町のジムなどでは、より高い目盛りの負荷を動かして「どうだい」とばかりに周囲を見回したり、わざとハアハア言いながら「達成感」をマシンに求める人も少なくありませんが、アスリートがこの次元で筋トレを楽しんでいては、世界に置いていかれます。

 ある意味では試合以上の真剣度、集中力で1動作ずつ、「感じながら」トレーニングしてほしいものです。

 西が丘のような施設を使うにあたって、まずそうした「自分で、何を、どうしたいのだ」という目的を持ち、それを現場のスタッフに投げかけて相談し、あくまでも自分が納得したメニューを「自分自身にやらせる」姿勢が大切でしょう。

 これは、町のスポーツマンであれ、70歳のベテランであれ、同じことだと思います。

 すでに科学センターを利用している選手たちに聞くと、「結局、スタッフの出してくるメニューに依存はできないし、それではスタッフに失礼。自分の肉体を他人に任せることはできないから、後は自分でどう調整し、活用するかです」といった声を聞きます。それが正解でしょう。

 

 ところでこうした「施設の利用」が科学トレの先端部なら、スポーツ選手にとって「こそ練」という非科学的強化方法も、とても大事だと思います。

 人にはあまり言わないでしょうが(笑い)こそ練とは、部活動などでみなが一緒に練習するほか、「自分だけはもっと強くなりたい。皆と一緒じゃいやだ」というややずるい(笑い)精神から、こっそり隠れて強化・練習することです。

 スポーツの取材でもっとも楽しいのは、こうした「オリジナルのこそ練」の話を聞くことで、そこに人間性や隠れた意欲、根性などが集約されているのです。

 でも、これだけは自分でもスポーツし、こそ練しているような人でないと、少し聞いただけではおもしろさがわからないし、聞き出しようもないのです。そこで「こそ練」という強化側面は依然として「こっそり」裏側に隠れているのですが、北京五輪を目指すような選手だって、こそ練とは無縁ではないはずです。

 たとえばマラソンの増田明美さんが現役時代、隣室の同僚(ライバル)に聞かれまいと、声を殺して夜中に腕立て1000回をやったが「隣の人も同じように声を殺してやっていた」(笑い)。といった話が有名です。

 カヌー選手が夜中に練習している話を「スポーツ&アドベンチャー」のコラムで今週書きましたが、大リーグのサイヤング賞をとったライル投手は、裏山の木500本をまさかりで切り倒して腕力をつけたとか、馬鹿げたような非科学的な話も混じってます。

 馬鹿げてはいるけれど、自分のために、自分の感覚をとぎすませ、自分の体の声を聞き取りながら行う「こそ練」は、ある意味で非常に科学的であり、自分のモニターであり、また根性のバロメーターにも もなります。

 あるレーシングドライバーからも「ハンドルの位置と車体の向きの感覚を体で覚えるために、毎晩1時間、駐車場で自分の乗用車のハンドルをぐるぐると回し続ける練習をした。1年間、毎日」と聞いた事があります。

 すごく感動しました。

 科学トレを超える独自の部分を、こそ連は持ってるのです。

 優等生的な発言をすれば、科学トレとこそ練と、この両方を活用できる選手こそ、最高のアスリートと言えるでしょう。もちろん、勝負で勝つにはこのほか「ずるさ」「非情さ」「運」なども必要ですから、いいトレーニングをしたから金メダル、とはいきません。

 でも「自分の力を出し切ろうとする」点で、科学トレとこそ練の「両方で達人」になろうとする姿勢が、大切だと思います。

 どちらかだけに依存するのではなく、科学も自分も、ばかにしないで、避難しないで、大切に。



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プロフィル
後藤新弥(ごとう・しんや) 日刊スポーツ編集委員、61歳。ICU卒。記者時代は海外スポーツなどを担当。CS放送・朝日ニュースターでは「日刊ワイド・後藤新弥のスポーツ・online」(土曜深夜1時5分から1時間。日曜日の朝7時5分から再放送)なども。
 本紙連載コラム「DAYS’」でミズノ・スポーツライター賞受賞。趣味はシー・カヤック、100メートル走など。なお、次ページにプロフィル詳細を掲載しました。
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