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後藤新弥の「スポーツ&アドベンチャー」

2007年1月30日更新

おやじ、人生初滑り~フノーボード!?

車山を背に十転八起…半日かけて立った滑った

 やったぞ、決まったぞと思った瞬間にまた天地がひっくり返り、いやというほど腰を打った。スノーボードというより、もはやフノーボードに近い。けれどおやじチャレンジャーはくじけなかった。半日粘って、スムーズさはないが何とかゲレンデを下りてこれるようになった。生まれて初めてのスノーボードを長野県車山高原スキー場で体験してみた。若返る。ご同輩もこれをやれば、きっとまた春が来る。



「腰穿き」で

調子に乗って、あっという間にまた腰を打った。フノーボードになりそうだ(撮影・長谷川文)
調子に乗って、あっという間にまた腰を打った。フノーボードになりそうだ(撮影・長谷川文)

 腰穿(ば)きというそうだ。わざとズボンをずり落とす。スノボファッションの定番らしいが、だらしがない。だらしがないが、実は「1度やってみたい」とも思っているのがおやじ世代の真実だ。

 前の晩に玄関の鏡の前でこっそり試していたら、孫が出てきた。見上げて「じったん、ち?」(おしっこ? )。余計なお世話だ。

 上着もだぼだぼした迷彩色のジャンパーにした。雪帽をかぶってグラサンをかけた。けっこう若く見える。よーし。思わず自分を鼓舞したら、足元でも「おーち」。なんだ、まだ居たのか。あっちへ行け。

 そうやって胸膨らませ、車山高原へ出掛けた。斜面が広いから、上級者が雪をけ立てて割り込んでくるようなこともない。アットホームな感覚が何よりだ。

 用具はすべてレンタルで、チーフ・インストラクターの鈴木智昭さん(40)に個人レッスンを依頼した。東大受験を除いては滑るが不得意だが、昨年スキーを2、3回習った。似たような物だろうとたかをくくったら、いきなりつんのめった。歩けない。



もう汗だく

起きた途端に何度も転んだ
起きた途端に何度も転んだ

 前足は約70度、後ろ足は85度ぐらいの角度で締め具に固定する。歩く時は後ろ足だけ解放して蹴って進むが、前足はほとんど横向きだから、エネルギーが直角交差して即転倒。リフト乗り場になかなか進めない。

 鈴木さんが「蹴り足をボードの中ほどに乗せ、行く方向を見るんです」。何とかゲレンデの上に着いた時はもう汗だくである。

 斜面に座って、ボードのエッジを立てて両足を固定する練習から教わった。えいこらと、そこから立ち上がるのがまた難しい。前に蓼科、遠くに富士山。標高1500メートルを超えているから抜群の景色だが空気は薄い。早くも息切れ、気持ちがなえ始めた。

 その瞬間に「上出来ですよ、立つまでに半日かかる人もいるんです」。うれしいコーチだ。雪を読むように、人の心も読んでいる。

 「難しくないんです。両手を広げます。その上にもう1枚ボードを乗せている感覚で、行きたい方にその仮想ボードを向ければいいんです」。肩が水平に回れば、腰もひざも付いていく。本当だ、ボードが回転し始めた。おい、できるぞ。たいしたもんだ!



腰を打った

鈴木さんの指導は年配者に優しかった
鈴木さんの指導は年配者に優しかった

 その早合点が痛かった。斜面に正対し、ボードを横向きにしたままゆっくり下りる「縦滑り」はすぐできた。それをいいことに、コーチを無視して緩斜面をどんどん滑走し始めた。

 フリーな気分が新鮮だ。仕事で辞表をたたき付けたらきっとこんな解放感を味わうに違いない。罰当たりなことを考えた瞬間、何がどうなったのか天地逆転。

 息が止まるほど腰を打ったが、ここでやめたら元も子もない。フノーボードではシャレにもならない。ぐっとこらえた。「後藤さんは雪を怖がらないから冷や冷やしますよ」。鈴木さんが苦笑した。ベテランだ。おだてながら半日で何とかS字ターンの技術の入り口まで引っ張ってくれた。

 七転八起というが、起きた途端に何度も転んだから、十転八起ぐらいだった。それでも転倒のタイミングが分かり「背中を丸めて、小さくなって」安全に転ぶコツも会得した。安全に転べるようになればしめたものだ。サラリーマンと同じ、失敗の上手な処理こそサバイバルの原点なのだ。おやじ得意の領域だ。

 恐怖心から猫背になってボードの上に覆いかぶさってしまったが、背筋を伸ばしたら格段に動きがスムーズになった。要は慣れだ。



こそ練して

車山を背に、フォームも腰穿きファッションも決まった!?
車山を背に、フォームも腰穿きファッションも決まった!?

 縦滑りだとスキーより制動が利く。両足が固定されているから、滑り始めると逆に雪との一体感を感じてくる。スキーは「おれが雪を制するのだ」と、自分主語になりやすいが、スノボだと「滑らせてもらう」感覚が強い。

 「自分も雪の一部になっていく感覚はスノボならでは」と鈴木さんも言う。福岡出身で元は美容師。雪国にあこがれて車山に来た人だ。「外国の知人に紹介されてスノボの魅力に取り付かれたが、90年代初めは日本ではまだ創成期。ここでもスノボは禁止されていた。ナイターの仕事が終わってから頂上まで2時間掛けて歩いて登り、夜中に1人で練習した」そうだ。

 スポーツの極意は「こそ練」にあり。ようし、今度は夜中に山頂に行こう。



 さぞ怖いだろう、大けがをするかもと不安だったが、日常を抜け出した快感は忘れられない。後日写真を点検していたら孫がまた来た。大転倒写真を目ざとく見つけて「じったん、いっちゃい?」。痛いかと心配してくれた。ここへ来い、湿布薬を張ってくれ。



 ◇車山高原スキー場 車山山頂(1925メートル)への北東斜面(標高差375メートル)約100万平方メートルに8コース。各種スクールのほか個別レッスンも受け付け。託児所、キッズエリア、そり専用ゲレンデなどがある。【問い合わせ】車山高原SKYPARK(電話)0266・68・2626 http://www.kurumayama.com/



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 【郵送宛先】 郵便番号104・8055 日刊スポーツ新聞社 編集局 後藤新弥
プロフィル
後藤新弥(ごとう・しんや) 日刊スポーツ編集委員、60歳。ICU卒。記者時代は海外スポーツなどを担当。CS放送・朝日ニュースターでは「日刊ワイド・後藤新弥のスポーツ・online」(土曜深夜1時5分から1時間。日曜日の朝7時5分から再放送)なども。
 本紙連載コラム「DAYS’」でミズノ・スポーツライター賞受賞。趣味はシー・カヤック、100メートル走など。なお、次ページにプロフィル詳細を掲載しました。
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