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後藤新弥の「スポーツ&アドベンチャー」

2007年2月20日更新

筋トレで感性を磨く

「ハードに鍛える」だけでは世界に後れ?科学とデータの「ソフト」重視が新しい

 世界に後れを取っている日本のスポーツ科学界に、町から革命が起きた。兵庫・尼崎に科学トレーニング施設「MPD」(マックス・パフォーマンス・デベロップメント=横山悟社長)がオープンした。プロ選手用の施設だが、欧米最先端のマシンや分析装置が一般にも公開されている。かねて本格的な筋トレに興味があった還暦おやじが勇んでハイテク基地へ乗り込んだ。意外なことに、真の筋トレは感性と集中力のトレーニングでもあった。



15分を即分析

20メートルダッシュのすべてを測定・分析する「オプトトラック」に還暦のへぼスプリンターが挑戦した
20メートルダッシュのすべてを測定・分析する「オプトトラック」に還暦のへぼスプリンターが挑戦した

 オプトトラックという。走路が20メートル真っすぐに伸びて、両側に赤外線のセンサーが並んでいる。突き当たりに分厚いクッションが設置されていて、まるで室内陸上世界大会のようだ。紛れもなくプロ用である。そこを走った。

 龍谷大長谷川裕教授(50=スポーツサイエンスコース)の「最大パワーでダッシュを」という指示で、顔つきが変わるほど集中して飛び出した。力んだせいか左右に振れてもう少しで斜行失格になりそうだった。

 驚いた。戻ってくるとパネルに全15歩の歩幅や速度、加速度までがグラフで出ていた。「右ひざに故障がありますね」と長谷川教授。げっ。弱点を一発で見抜かれた。「ほら、右の歩幅が狭いし、パワーも出てない」。十字靱帯(じんたい)を伸ばしているせいだ。

 右ひざが伸びない自覚はあったが、ここまで顕著だとは思わなかった。科学は恐ろしい。「対処法として、早めに中間疾走に移ってみては」と促され、早めに上体を立てる走り方を試してみた。終盤の疾走域では腰をひねってカバーできるせいか、左右のバランスが向上した。問題解決の糸口が瞬く間に見つかった。

 各競技のトップ選手でも無意識に加速をためらったり、パワーを出し切らない例が発見されるという。それをその場で分析してその場で修正する。すごい装置だ。米国でも浸透し始めているが、欧州ではユベントスほか有名サッカークラブの大半が採用しているという。



鍵はスピード

オンタイムで表示されるデータを2人でチェック
オンタイムで表示されるデータを2人でチェック

 導入したのは実践的スポーツ科学の権威、比佐仁さん(58=スポーツプログラムス主宰)。日本では筋力を太くする筋トレに偏りがちだが「いくら力ををつけても、それを一瞬で発揮するスピードが伴わないとプロの肉体がつくれない。なぜなら『パワー=力×スピード』だからです」。

 確かにサッカーでも、日本はとっさの反応で後れを取ることがある。中田英が指摘した「1対1の当たりの弱さ」とも関係がありそうだ。鍵はスピードだ。

 それを強化する筋トレマシン群もユニークだった。パネルには重さだけでなく、速度を掛け合わせた「パワー値」が表れる。通常のジムではバーを「ゆっくり押して、ゆっくり戻して」と教えられる。ここでは逆にスピード重視だ。

 ノルマ値ではなく、自分が今出している値がオンタイムで表示されるから、本能が勝手に「もっと強く、もっと速く」を追求し始める。いい意味でそれを止められない。スクワットを限度130キロで20回やったら顔がゆがんだ。誰か形成外科医を呼んでくれ。

 そもそも。鉄の重りを使うマシンだと惰性がつくから「50キロ」を押しても途中で軽くなる。ところがここのは空気圧。選手が出すパワーに応じてどの位置でも負荷が掛かるからごまかせない。嫌みな機械だ。

 自己の最大筋力値も測定できる。その50%を目安に動作を連続すれば筋持久力のトレーニングになる。山本敬也コーチ(40)が「やりますか」。「いいよ、あんたやんなさい」。



古武道通じる

空気圧のカイザー製マシンでは、あごが座骨神経痛になりかけた
空気圧のカイザー製マシンでは、あごが座骨神経痛になりかけた

 ウオームアップも面白かった。山本さんから腹筋、背筋を軸とする「体幹」を感じる練習の指導を受けたが、体幹という長方体の感覚から次第に体の重心を点で感じ動きへと、感性領域の奥深くへ入り込んだ。いわば芯(しん)トレ、古武道の「たんでんに力を入れる」に通じるものがある。

 筋トレだからウンウンうなるだけかと思って出掛けたが、むしろ筋肉の使い方や感覚を重視する指導法(ソフト)が新鮮だった。

 オプトトラックの横には投球や打撃、ゴルフなどの旋回運動用の分析装置も完備していた。これらもオンタイムでデータをフィードバックすることで、選手の感性や本能を直接刺激する効果を活用したものだ。

 1月に開設、大手ラグビーチームの選手らが個人で利用し始めている。17日には日本プロスポーツ協会山口弘典副会長が来場し「プロ選手のトレーニング基地としてだけでなく、ここで得る科学的な知識や体験を、個々のキャリアアップに生かす場にしたい」と注目した。大阪場所では伊勢ノ海部屋が利用するそうだ。

 ちなみに80年代初めにストレッチングの概念を、同半ばには米五輪科学委員会の動作解析システムを初めて日本に導入したのが比佐さんである。「普通の街角で、しかもプロだけでなく普通の人も自由に利用できて初めて科学が生きてくる」。その点でもここは革命的だ。町からの革命だ。



山本さんのコーチで芯トレを体験。科学トレは感性も開発する
山本さんのコーチで芯トレを体験。科学トレは感性も開発する

 それにしても走り一発で肉体の秘密を見抜かれたのには驚いた。よし、次は美人のアスリートを連れていって、丸裸にしてみよう。



 ◇MPD 尼崎市道意アマドゥ内アクトス2F(電話)06・6412・5033◇スポーツプログラムス(電話)03・5793・7011 http://www.sports-pro.jp/ksp_index.html



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 【郵送宛先】 郵便番号104・8055 日刊スポーツ新聞社 編集局 後藤新弥
プロフィル
後藤新弥(ごとう・しんや) 日刊スポーツ編集委員、60歳。ICU卒。記者時代は海外スポーツなどを担当。CS放送・朝日ニュースターでは「日刊ワイド・後藤新弥のスポーツ・online」(土曜深夜1時5分から1時間。日曜日の朝7時5分から再放送)なども。
 本紙連載コラム「DAYS’」でミズノ・スポーツライター賞受賞。趣味はシー・カヤック、100メートル走など。なお、次ページにプロフィル詳細を掲載しました。
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