日本(世界ランク13位)が初戦で歴史的大金星を挙げた。ラストプレーでWTBカーン・ヘスケス(30=宗像サニックス)が逆転トライを挙げ、過去2度世界一の優勝候補・南アフリカ(同3位)に逆転勝ちした。

 FB五郎丸歩(29=ヤマハ発動機)は最後方から80分間、俯瞰(ふかん)しながら、冷静に戦い抜いた。「4年前から歴史を変えようと始まったチームですけど、80分通して勝てると選手は信じ切っていた。それを体現できたので、後ろから見ていて頼もしかった」。精悍(せいかん)な顔つきで、分厚い胸板を張った。

 前半8分の先制点は五郎丸が約20メートルを疾走し、屈強な南ア守備陣を慌てさせて誘った反則から得たPG。ゴール正面。迷わずキックを選択。「国歌を歌う時には込み上げてきましたけれど、試合中は緊張しなかった」。ゴールに向かってボールを2回クルッとまわしてセット。蹴るまでの歩数も一緒。いつも通り決めた。少しだけ笑顔を見せ「五郎丸ショー」が幕開けした。

 右足から繰り出すアーチは4年間の集大成。PG5本。コンバージョンも2本成功。9本中7本決めた。追いついても追いついても突き放される苦しい展開。五郎丸のキックが命綱だった。22-29。この試合最大の点差では、自ら華麗なステップでトライを決め、さらに難しい角度からのコンバージョンも確実に仕留め同点。残り約10分の日本の活力となった。

 冷静さには、緻密な分析力があった。南アフリカ31人全員を細かく研究し、分析した。試合前日までにはホワイトボードに特徴を書き、壁に貼り、最後の復習で頭にたたき込んだ。「トライも外に走ればうちが開く分析通り」とニヤリ。全34得点中24得点。24得点は日本代表選手としては、03年大会米国戦の栗原徹、11年大会フランス戦のジェームス・アレジのいずれも21得点を塗り替えるW杯個人最多得点記録となった。ハンドリングもキックも、大きなミスは、まったくなかった。

 W杯初舞台で大金星の主役を担った。「必然です。ラグビーに奇跡なんてないです」。まだ序章にすぎない。「W杯は始まったばかり。歴史は1つ変えましたけれど、もっと大きなものを変えて日本に帰りたい」。五郎丸のW杯は、描いたシナリオ通りにスタートした。