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渡辺謙が初主演で主演男優賞/映画大賞
- 映画「明日の記憶」での迫真の演技が評価され主演男優賞を受賞した渡辺謙
渡辺謙(47)が、俳優生活28年目にして初めて主役を演じた映画「明日の記憶」で主演男優賞を受賞した。記憶がなくなっていく病気と闘うエリートサラリーマンを、俳優人生のすべてをかけて演じきった。また、助演男優賞は「地下鉄に乗って」「7月24日通りのクリスマス」の大沢たかお(38)が受賞。石原裕次郎賞は「男たちの大和 YAMATO」、監督賞は「雪に願うこと」の根岸吉太郎監督、特別賞は故今村昌平監督、外国作品賞は「ブロークバック・マウンテン」がそれぞれ受賞した。
「俳優ってどこかで、役という傘の下で甘んじているところがある。それを外して、全身全霊でこの役を受け止めた。僕の俳優人生のすべてをかけないといけないような作品だった」。静かに、かつ毅然(きぜん)と渡辺は話し始めた。
若年性認知症で記憶を徐々に失っていくエリートサラリーマンの闘病と夫婦愛を描いた作品。主人公が絶望のふちに落ち、やがて「絶望」さえ自分では認識できなくなっていく。渡辺はその先にある「生」を描きたかった。「生きるって素晴らしい。どんなことがあっても、生きているだけで素晴らしいということを自分は原作本や映画から教わった気がする。人はある意味、生かされだれもがちゃんと何かに向かって生きている。それを伝えたかった」。
渡辺自身も実生活で絶望のふちを味わった。89年に映画「天と地と」の撮影中に、急性骨髄性白血病で倒れて降板。初主演が幻となった。翌年復帰したが、5年後に同じ病気で再び入院。その治療を通じてC型肝炎とも闘った。この経験から20年近くも医療関係者役や重い病気を扱った作品を避けてきたが、今回初めてその封印を解いた。「自分だけができる役柄だから」。悲壮な決意を周囲にそう語っていた。
ラストシーンは当初、病状の進んだ主人公が介護施設で暮らす設定だった。「あまりにつらすぎた。映画を見て、お客さんが劇場を出るときに、少しだけ何か温かいものを心に残して席を立って欲しかったのに…」。すぐに変えた。妻を識別できなくなった主人公の後ろを妻がそっと付いていく光景。泥道、つり橋…。道のある限り、いつまでも夫婦2人の歩みは続く。そんなイメージだ。
施設で主人公の暮らす部屋には、6歳になる初孫「芽吹(めぶき)」ちゃんの写真がたくさん飾られている。木々に新緑が芽吹くように、見る人の心に温かい気持ちがともりますように…。名前には、そんな願いが込められているようだ。【松本久】
[2006年12月5日8時53分 紙面から]
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