打てる捕手vs守れる捕手どちらがいい?/里崎評論

里崎智也氏

<里崎評論:打てる捕手がいいのか、守れる捕手がいいのか>

 ニッカンスポーツ・コムでは、新聞紙面で好評の里崎智也氏(日刊スポーツ評論家)の「ウェブ特別評論」を掲載中。2回目は「打てる捕手がいいのか、守れる捕手がいいのか」です。

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 巨人の阿部慎之助選手が捕手に戻った。肉体的にシーズンいけるのならば“捕手復帰”はチームにとって大歓迎だろう。

 なかなか「打つ・守る」を阿部選手のようにトップレベルで兼ね備えた捕手を探すのは難しい。

 では両方の技術がそろった選手がいない場合「打つけど守れない捕手」と「打てないけど守れる捕手」のどちらを選ぶのか?

 私は迷わず「打てないけど守れる捕手」を選ぶ。理由は簡単、打っても守れなければ、ミスで相手に点を与えてしまうため、試合にならないからだ。

 捕手の守りは「捕る」「止める」「投げる」の3つがある。最低3スキルがあってこそ、1軍の試合でマスクをかぶることができる。

 「捕る」「止める」とは。具体的に挙げると、真っ先に思いつくのは、パスボール。自分でサインを出してパスボールを年間3~4個以上やっているようでは捕手としてはアウト。

 また「投げる」については、盗塁の場面で二塁送球へ、ミットに収まってから二塁ベース上の野手に送球が到達するまで遅くとも1・95秒以内が最低条件。もちろん変化球、球の高低など送球しにくいミット位置もあるが、それを含めた数字。ベース上に構えた野手のベルトより下に送球できるコントロールも必須だろう。

 捕手を固定できればそれが一番いい。だが、その道のりは険しい。一例として挙げた守りの技術に加え、シーズン終盤、優勝争いで1球で試合が決まる場面も多く、緊張の糸は張りっぱなし。メンタル面でも重圧がかかりっぱなしのため、打撃以外でクリアしなければならない課題は山積みだ。私の現役時代で言えば、試合中「10」のうち「9」は守りのことで頭がいっぱいだった。打席がまわるイニングだけ一瞬打つことを考える程度だった気がする。

 捕手固定制と複数制の特筆すべきメリット、デメリットを少し考えてみた。

 ▽固定制 デメリットとしては、2番手捕手を1軍の場で育てる時間がない。レギュラー捕手がけがで離脱した場合、実力差が大きいためチームは一大事となる。

 ▽複数制 メリットとしては主力に休みを与えられる。緊急時の代役をたてやすい、がある。実際には、捕手で打撃に秀でた選手がいないから、そうせざるをえない、というのが本音の部分だろう。

 昨季、日本一連覇を達成したホークスは、ここ数年は捕手複数制。捕手の打撃力が多少弱みでも、それ以外の野手がカバーしているから勝てる。

 チームの結果が最優先事項だ。捕手は守備がいい、リードがいいと称賛されるのは、チームが勝ってこそ初めて評価される。

 私の現役時代、12球団見渡せば、古田氏、谷繁氏、矢野氏、城島氏ら打って守れるスゴい捕手があちこちにいた。打力で見劣りすれば、目立つため個人的には劣等感しかなかったことを記憶している。守りが第一だが、そんな選手に追いつけ追い越せで、勝つにはバットも振るしかなかった。

 固定捕手育成への近道はない。1軍で通用しなければ2軍で実戦経験を積み、反省し、成長して、再び1軍で腕試しする。そして壁を1つずつ乗り越えていくしかない。

(日刊スポーツ評論家)

 ◆里崎智也(さとざき・ともや)1976年(昭51)5月20日、徳島県生まれ。鳴門工(現鳴門渦潮)-帝京大を経て98年にロッテを逆指名しドラフト2位で入団。06年第1回WBCでは優勝した王ジャパンの正捕手として活躍。08年北京五輪出場。06、07年ベストナインとゴールデングラブ賞。オールスター出場7度。05、09年盗塁阻止率リーグ1位。2014年のシーズン限りで引退。実働15年で通算1089試合、3476打数890安打(打率2割5分6厘)、108本塁打、458打点。現役時代は175センチ、94キロ。右投げ右打ち。