アリ氏アトランタ五輪聖火点火に登場し大歓声浴びる

96年7月、アトランタ五輪開会式で最終聖火ランナーを務めたアリ氏

 プロボクシングの元世界ヘビー級王者ムハマド・アリ氏が3日(日本時間4日)、入院していた米アリゾナ州フェニックスの病院で亡くなった。74歳だった。

 96年7月のアトランタ五輪開会式。アリが震える手で聖火に点火した瞬間、スタジアムが大歓声に包まれた。人種差別の最も根強かった南部アトランタで、彼は「平等と平和の象徴」として復活したのだ。スタンドにいた私は「時代がようやくアリに追いついたのだ」と感傷的になった。

 アリはリングの外でも、20世紀という激動の時代と勇敢に殴り合った。「なぜ黒人の俺が罪もない有色人種の頭上に爆弾を落とす必要があるんだ」。67年、24歳の世界王者はこう表明して、ベトナム戦争への徴兵を拒否した。当時、米国では18~26歳の男子に兵役の義務があった。そんな時代にたった1人で米国に拳を向けた。

 当時、アリはこうも語っている。「白人が始めた戦争になぜ黒人がいかなきゃいけないんだ」。彼の言動は差別社会への反抗でもあった。政府から世界王座を剥奪され、裁判では罰金刑が宣告された。しかし、戦況が悪化、長期化するにつれ、全米で反戦運動が盛り上がり、アリの闘いは「聖戦」として支持されるようになる。70年、ついにアリは連邦最高裁で無罪を勝ち取り、差別撤廃と平和のシンボルとなる。

 病魔に侵された第2の人生も平和活動にささげた。90年の湾岸戦争ではイラクに乗り込み、フセイン大統領と会談。米国人捕虜解放に貢献した。01年の9・11テロの救済コンサートではイスラム教徒を代表して平和を呼び掛けた。

 アリがなぜ国境や人種を超えて敬われ、愛されたのか。それは彼が人知を超えた「自由そのもの」だったからではないか。差別、戦争、病…。個の力ではどうしようもない巨大な壁に彼は1人で立ち向かい、自由を勝ち取った。ゆえに伝説になった。もしかするとムハマド・アリとは神から人類への贈り物だったのかもしれない。【首藤正徳】