こけし本間朋晃、三途の川見て「怖かった」覚悟語る

「コケシのないオレは、オレではない」と完全復帰に向け、揺るぎない思いを熱く語った本間(撮影・狩俣裕三)

 「みんなのこけし」は今-。新日本プロレスの人気選手、本間朋晃(41)が18年の復帰を目指す覚悟を語った。昨年3月の試合で首を痛め中心性頸髄(けいずい)損傷の重傷を負い、リングを離れて10カ月。一時は四肢まひ状態になったが、手術後の地道なリハビリを続け、ようやく光が見えてきた。再び得意技「こけし(ダイビングヘッドバット)」でプロレス界を明るく沸かすために、その思いを聞いた。

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 見慣れた天井がにじんで見えた。昨年10月29日、都内の道場。本間はリングの上で意を決した。後方に体を投げだし、後ろ受け身を取った。「怖かったですね」。両手でマットをたたき、いい音が耳に響く。全身に反動が返ってくるのが懐かしく、うれしかった。1人、誰もいない道場であおむけのまま泣き続けた。ようやくできたレスラーらしい動き。「21年間の選手生活で一番うれしかった」。

 3月3日、沖縄での試合だった。邪道のグリーンキラー(ハングマンDDT)を受けると、首から下に「100倍くらいの電流」が流れ、体が1ミリも動かなくなった。激痛にも遠のく意識。「さんずの川と言いますが、本当にそんな感じで。夕暮れ時の川に赤い橋が架かっていて、向こう岸から呼ばれる感じ」と生々しく振り返る。吸い込まれそうなところで「本間!」の声で覚醒したが、事態の深刻さを分からないまま、不安だけが募った。

 県内の救急病院に緊急搬送された。頸椎(けいつい)の3、4番は呼吸、心臓に影響があり、目が開かなければ急死の危機もあった。同27日に大阪市内の病院で手術。ただ、「手術で改善すると思ったら、手足が思うように動かないのは変わらず」。不安は深刻になった。それでも、レスラー仲間がリング上で「こけし」を繰り出す激励をテレビ越しに見るなど、心を折るわけにはいかなかった。

 リハビリに3時間、ジムワークに1時間。当初は10キロしかベンチプレスが上がらない絶望。そこから人生初のストレッチの導入や体幹を鍛え、何より首を鍛えた。「こけしのやり過ぎで首を痛めたわけじゃない。こけしがない本間になんの魅力があるのか」。独特のフォームでコーナーポストから頭を相手に打ち付ける得意技。だからこそ「見る人に心配させない体作りをしないと」とケガ前より太くなった首をさする。

 当初復帰戦として目指した3連覇がかかった11月のワールドタッグリーグには間に合わなかった。いまはただ、今年の復帰のリングでこけしらしい試合をするために、黙々とトレーニングを続けるしかない。「ファンの方や周りの方の応援に感謝して、生命ある限りプロレスをやりたい。こけし・イズ・ハッピー! ですよ」と変わらぬしゃがれ声で宣言した。【取材・構成=阿部健吾】