【右投げ左打ちの功罪〈12〉】超一流のイメージ「上から打つ」でも実際は違う

打撃を極めた名球会打者たち。右打ちと左打ちの内訳を調べてみると…バットの歴史に端を発した野球観の変化が、深い影響を与えています。

その他野球

★「ヘッドを落とす」「ヘッドを残す」

前回はダウンスイングがもたらした影響について振り返った。しかし「上から打て」という指導は、本当に間違っているのだろうか?

日本では右打者の強打者が衰退していると言っても、名だたる右のスラッガーは、現在でも「上からたたけ」と指導する人が多い。

中村紀洋、近鉄時代の打撃フォーム。オリックス戦の左越え本塁打=2003年6月23日

中村紀洋、近鉄時代の打撃フォーム。オリックス戦の左越え本塁打=2003年6月23日

3度の3冠王に輝き、日本球界NO・1の右打者・落合博満氏、中日中村紀洋打撃コーチらも、YouTubeなどの動画では「バットは上から出す」といった指導をしている。

日刊スポーツ評論家・和田一浩氏確かにそうですね。僕だって自分の打撃について、どうやって打っているかと聞かれたら「上から打つイメージ」と答えます。上から振って打球にスピンをかけるイメージ。でも実際には、そうなっていないことが多い。バッティングは自分の感覚と実際のスイングは違うことが多いんですよ。矛盾している。そこが難しいところ。

もっとも、実際に打席に入って構えたとき、インパクトゾーンよりグリップの位置を下にして構える打者はいない。厳密にいえば、誰もが上からスイングしている。

日刊スポーツ評論家・篠塚和典氏だからバットのヘッドは落としてから打たないと、レベルに振れない。そこからグリップが上がっていかないように抑えるイメージで振る。この「抑える」というイメージが「上から打て」という指導になるんじゃないかな。

2007年3月24日、楽天戦で右中間への本塁打を放つ西武和田一浩

2007年3月24日、楽天戦で右中間への本塁打を放つ西武和田一浩

和田氏スイングするとき、グリップが通る軌道が体から離れていけば「あおり打ち」になる。そうなると、打球にはドライブがかかって上がっていかない。だから打球を遠くに飛ばすために、グリップの通過軌道が体の近くを通って、浮いていかないようにスイングする。インパクト後も、グリップは肩のラインより上がらないようにするのが理想。それが「上から振る」という指導になるんでしょう。ただ、そのイメージだけだとバットのヘッドが外側から入りやすくなる。だからバットのヘッドが捕手方向に残るような感覚も大事ですね。

表現に違いはあるが、両氏とも「上から打つ」という指導の正体を同じように解説している。

上から打つイメージを持ちながらも、バットが内側から出るように、篠塚氏は「ヘッドを落とす」とし、和田氏は「ヘッドを残す」と表現している。矛盾しているように感じるが「グリップは上から」で「バットのヘッドは下から」ということだろう。

野球における動作解析の第一人者でもある、筑波大の川村卓監督にも話を聞いた。

プロを中心とした野球報道が専門。取材歴は30年を超える。現在は主に評論家と向き合う遊軍。
投球や打撃のフォームを分析する企画「解体新書」の構成担当を務める。