
【朝乃山を追う:23年春場所編〈上〉】「今があるのは栃ノ心関のおかげ」
大相撲で大関経験者の朝乃山(29=高砂)が、次の夏場所(5月14日初日、東京・両国国技館)での再入幕を確実にした。エディオンアリーナ大阪で行われた3月の春場所は、東十両筆頭で13勝2敗の好成績。2場所連続の十両優勝こそ、同じ幕内優勝経験者で14勝1敗だった逸ノ城に、1差届かなかったが、実力差を見せた格好となった。初日と12日目には幕内土俵にも立ち、再入幕への思いも強くなった15日間だった。21年5月に新型コロナウイルス感染対策ガイドラインの違反。6場所の出場停止処分を経て、三段目から再出発した朝乃山のドキュメント。今回は春場所を振り返る。上編は初日から8日目、下編は9日目から千秋楽までの2部構成。
大相撲
<東十両筆頭:13勝2敗>上編:初日から8日目まで
「早く戻りたい、悔しい」まぶしく見えた幕内土俵
662日ぶりの幕内土俵だった。
横綱照ノ富士が休場し、初日の幕内出場力士は奇数の41人。繰り上げられる形で大関時代の21年5月19日、夏場所11日目に勝った、隆の勝戦以来の幕内土俵に立った。
相四つの相手に、立ち合いですぐに右を差すと下手を引いた。左上手は取れなかったが、圧力をかけて寄り切った。
「幕内土俵で緊張しましたけど、しこ名を呼び上げられた時に、たくさんの(応援)タオルや声援が力になりました。水戸龍関は自分より一回り大きい相手で、体重も重たいですし、しっかり踏み込んで、圧力に負けないように、下から攻める気持ちでいったんですけど、左手がバンザイになったので、そこがまだ課題です。ただ、相撲内容は悪かったけど、勝ててよかったです」
喜びをかみしめた。
母校近大から、かつて贈られた化粧まわしを着けて土俵入りした。
「去年は謹慎中で出られなかった。出場できることがうれしい。しっかり土俵の上で戦う姿、白星を届けていきたい。大阪は第2の故郷。4年間過ごした近大もありますし(化粧まわしを)着けようと考えていました」と、今場所に懸ける思いの強さを打ち明けた。
自身の土俵入りは十両。2日目以降のほとんどは、十両終盤戦の土俵に立ち、花道を引き揚げる際に、化粧まわしを着けて土俵入りに向かう幕内力士と、花道ですれ違う日が多かった。
そんな時は道を譲り、決まって振り返った。幕内土俵入りを見つめた。その時の心境を、こう振り返った。
「幕内は土俵入りの時からお客さんの人数が違う。通路の端から幕内土俵入りを見るたびに『早く戻りたい』と『悔しい』という気持ちになった」
近づいたからこそ、一段とまぶしく見えた幕内土俵に戻りたい-。その思いが強くなった15日間の始まりだった。
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