山田哲人内野手(23)が、ヤクルトを14年ぶりの優勝に導いた。今季は打撃のみならず盗塁にも果敢に挑戦し、3割30本塁打30盗塁のトリプルスリーを達成するなど、球界を代表する選手に成長した。山田がいたから他の選手が生き、強力打線になっていった。自然体を崩さぬ山田スタイルを貫きながら、チームを引っ張った。

 山田が、子どものようにはしゃいだ。一塁側ベンチからサヨナラ適時打を放った雄平の元に一目散で駆け寄った。待ち望んでいた歓喜の時間。「優勝」の味に酔いしれるように、グラウンド上で喜びを爆発させた。試合後の会見で言った。「野球っていいスポーツだなって思いました。野球をやってて良かったなと思いました」。この日は4打数無安打でも、関係ない。シーズンを通して頼れる男であり続けた。

 2年連続の最下位で迎えた今季、山田は1人ひそかに優勝を誓った。そのために真剣に取り組んだのが盗塁だった。「盗塁は野球の中で一番しんどいプレー。それをやれば優勝につながると思った」。出塁してバッテリーに重圧をかければ、後ろを打つ畠山へ直球が増える。それが得点力アップにつながると考えた。

 3割30本塁打30盗塁。トリプルスリーを目標に掲げたが「そのために走ったんじゃないんです」と言う。真中監督の「あいつはどうでもいい場面では走ろうとしない」という評も、勝利のために盗塁した証しだった。「帰塁がしんどい」と言っていた昨年までの姿は、どこにもなかった。

 優勝のために走る。そこに山田らしさがあった。「僕はガツガツいくタイプではないですから。自分で決めたろ、とも思わないです」。好きなサッカー選手は香川真司(ドルトムント)。それもゴールではなく、アシストに心が動くという。「本田さんも好きですけど、ボク自身は『オレが』って感じではないので」。山田は盗塁で仲間を生かした。はからずも打線の主役に躍り出たが、山田は常にそのつもりで戦っていた。

 走れない時期もあった。5月末に右太もも裏を痛め、6月30日の阪神戦では右足首を捻挫した。5月31日から7月7日まで盗塁は0。打撃で貢献しても、モヤモヤする思いがあったのだろう。6月26日、静岡での巨人戦が雨天中止になった夜、鉄板焼きを食べながら真剣な表情で口を開いた。

 山田 最下位って本当に嫌です。優勝したい。マジで優勝したい。優勝するってどんな感じなんだろ。

 食事では埋められない優勝への飢餓感が、山田を走らせた。「しんどい」ことを自らに課し、チームを活気付けた。MVP最有力候補の活躍は、縁の下の力持ちを目指した結果だった。【栗田尚樹】