<ロッテ0-9日本ハム>◇17日◇QVCマリン

 家族が見守る背水のマウンドで、日本ハム糸数敬作投手(26)が最高に輝いた。117球のプロ初完封勝利。「嫁と娘が見に来て、勝ったのは初めてなんです。いつも大量失点で早い回に降板して…。前回満塁本塁打を打たれて2軍かなと思ったけど、もう1度チャンスをいただいた。結果が出て、本当に良かった」と、喜びよりも安堵(あんど)感を漂わせた。

 転機は3年目の09年だ。故小林繁投手コーチの薦めもあってサイドスローに転向すると、プロ初勝利を含む4勝を挙げた。だが成長を邪魔していたのが、精神面での弱さ。吉井投手コーチは「相手打者よりも、こっち(心)との戦いという感じだった」。結果を怖がるあまり、制球を乱して四球で走者をため、甘くなった決め球をねらい打たれることが多かった。そんな糸数を、同コーチの魔法の言葉が救った。「実力は持っているんだ。何があっても打者と勝負だぞ。ジーマーミーだ、ジーマーミー」。沖縄出身の糸数を意識した方言(!?)と思いきや、ジーマーミは沖縄の郷土料理である豆腐の名前。糸数は「意味としてはまったく違った。でもそれで笑って、リラックスできた」。首脳陣の気遣いに、心はす~っと楽になった。

 この日のウイニングショットは、「ゆるいボールだから普段は怖い」と話すカーブ。QVCマリン特有の強風を利用し、鋭くブレーキがかかり、大きく曲がった。「(相手打者が)カーブを意識しすぎて、130キロ中盤の直球でもファウルが取れた」。終わってみれば散発4安打。味方の失策で招いた、1回2死三塁が最大のピンチだった。

 7月1日西武戦以来の今季2勝目は、通算25度目の登板で忘れられない試合となった。うっかりロッカー室に忘れ、1度取りに帰ったウイニングボール。帰り道でしっかりと、明希乃夫人(26)、華衣愛(けいあ)ちゃん(2)、莉衣愛ちゃん(10カ月)に手渡した。首位ソフトバンク追走へ、貴重な戦力が、殻を破った。【本間翼】