俺についてこい!

 楽天田中将大投手(23)が14日、プロ野球創設期の名投手、故沢村栄治氏を記念した「沢村賞」に輝いた。5年目の今季、同賞の選考基準7つ(25登板、10完投、15勝、勝率6割、200投球回、150奪三振、防御率2・50)を全てクリア。同じく全項目の基準を満たした日本ハム・ダルビッシュを抑え、今春キャンプでの宣言どおり、有言実行で最高の栄誉を手にした。ただチームは5位。来季の「リーグ優勝&日本一」実現へ、「不言実行」で挑むことを誓った。

 珍客の祝福も受け入れた。秋田の温泉に滞在中の田中。会見場に突如、なぜかなまはげが現れた。「悪い子はいねがー!?」。真っ赤な顔で手にした出刃包丁?

 には「祝沢村賞」の文字。サプライズの演出だったが、マー君は「スベってますよ」と冷静に指摘した。最後は優しく笑って、乱入者とも記念撮影に納まった。

 仕掛けはスベっても、田中の投球はスベることがない1年だった。19勝、防御率1・27、勝率7割9分2厘と、いずれも自己ベストで3冠。「コンディショニングが良かった。いろんな方に助けられた」と感謝したが、周囲の力を結果につなげたのは何より自身の努力とぶれない心根だった。

 沢村賞を「投手タイトルで一番の名誉」と位置付け目標にしてきた。昨季、同い年の広島前田健が手にし「先に行かれたな」と悔しがった。遅れはしたが、有言実行で達成した。今年2月の沖縄・久米島キャンプ。朝の声出しの時間に、星野監督や居並ぶチームメートの前で「沢村賞を取ります」と宣言した。「プレッシャーをかけました」と退路を断って突き進んだ。

 一片の文句も挟ませない数字が並ぶ。「自信になる」と認めた。だが、しかし、どこか不満があるとすれば5位に終わったチーム成績に違いない。団体競技にあって1人、突出しても優勝には届かない。「一番の目標はチームがリーグ優勝、そして日本一。それに貢献したい」と誓った。ただ、こう続けた。「年齢的に僕が(チームメートに向かって)口に出すのは難しい。プレー、背中で引っ張っていけたら。そういう形でしか、僕はできないかな」。男は黙って。23歳、精いっぱいの主張だった。

 シーズン終了直後から、練習が休みでもKスタ宮城でウエートを続けた。その時、ぼそっと言った。

 田中

 来年こそ、来年こそって、いつまで言っててもダメなんです。マスコミ、ファンの方は優しすぎます。僕らは、それに甘えてちゃダメなんです。

 妥協なき日々の積み重ねで最高の賞をつかんだが「全ての面で上を目指す。それがなくなったらやめるとき」と言い切る。来年こそ、ではない。常に今この時を、田中は全力で生きている。【古川真弥】