<巨人0-0阪神>◇4月30日◇東京ドーム

 さすがに今日は負けるかも…。阪神のセットアッパー榎田大樹投手(25)が、そんな雰囲気を吹き飛ばした。0-0の巨人戦9回裏に無死満塁のピンチを招いたが「江夏の21球」もびっくり、26球の快投で無失点。巨人戦69年ぶりのスコアレスドローに持ち込んだ。4月を3位で終えた粘りはホンモノ。黄金週間で巻き返せ!

 0-0の9回裏2死満塁。冷静な榎田が思わずフライングした。巨人実松が飛球を打ち上げた瞬間、勇み足でグラブをたたいてガッツポーズ。自ら招いた大火事を猛放水で鎮火し、珍しく感情を乱した。

 榎田

 いっぱいいっぱいだったので。気付いたらガッツポーズしてました…。

 白熱した投手戦で9回へ。3番手でバトンを受け、いきなりピンチを招いた。先頭の4番阿部は右前打。5番村田には右翼フェンス直撃の二塁打を浴びた。6番高橋由を敬遠し無死満塁。虎党さえもサヨナラ負けを覚悟した時、明らかに目の色が変わった。カッと見開き、ギラつきが増した。

 榎田

 自分でどうにかしないといけない。打たれたら終わり。必死だった。

 代打谷はフルカウントから「一番コントロールできる」カットボールで空振り三振。代打加治前も同じくカットで浅い右飛。最後は代打実松を二飛に仕留め、土俵際からの大どんでん返しだ。山あり谷ありの26球を終え「もう最悪です。なんと言ったらいいのか…」と苦笑いするしかなかった。

 3月、約2年間の交際を実らせ、3歳年上の28歳一般女性と結婚した。兵庫・西宮市内の新居で料理にトーク…、心身ともにサポートを受ける。婚姻届を提出したのは3月14日。ホワイトデーだから、という理由ではない。記念日にはすてきな意味がある。

 榎田

 3・14って円周率ですよね。円周率みたいに永遠に仲良くいられたら、と2人で決めたんです。

 年明けには寒空の下、胸を震わせた。古巣・東京ガスで自主トレ中の1月某日、新妻の父が突然グラウンドに訪ねてきた。「頼りない娘ですが、よろしく頼みます」-。新郎は「泣きそうになりました」と感激を振り返る。もう独り身ではない。家族を背負う男は窮地に立たされても、強い。

 延長11回、0-0で試合終了。阪神巨人戦で両チーム無得点の引き分けは第2次世界大戦中の43年以来、実に69年ぶりだ。強心臓男が宿敵相手の3連敗を消し去り、歴史を塗り替えた。

 榎田

 こんな投球を続けたら体が持たない。チームのリズムも悪くなる。自分もしんどいし、周りもしんどい。しっかり3人で終わらないといけない。

 猛省左腕は開幕から13試合登板中、12試合で無失点。早くも9ホールド目を記録した。2年目のジンクスなんて、なんのその。虎のセットアッパーは逆境を恐れず、終盤のマウンドを守り抜く。【佐井陽介】

 ▼江夏の21球

 79年の日本シリーズ第7戦(大阪球場)で広島を日本一に導いた江夏豊の伝説の投球。広島が4-3と近鉄をリードした9回裏に登場。無死満塁のピンチを招いたが、1番石渡のスクイズを外角高めの変化球で外して三塁走者藤瀬を三本間でアウトにするなど無失点で切り抜けた。作家山際淳司氏がノンフィクション作品として発表、ドキュメンタリー番組にもなった。