<西武7-3ロッテ>◇6日◇西武ドーム

 歓声を全身で浴びる余裕はなかった。1-1の5回、プロ初本塁打を放った西武永江恭平内野手(20)は全速力でダイヤモンドを駆け抜けた。「奇跡のホームラン。いやー、本当に気持ち良かったです。慣れてないんで、ちょっと早く走りすぎちゃったと思います」。かっこはつけず、ありのままの言葉で、応援に駆けつけた家族、ファンにメッセージを送った。

 苦しみ、もがき、手にした待望の1発だった。不動の遊撃手だった中島がメジャー移籍。守備力を評価され開幕スタメンを勝ち取り、「ポスト中島」と期待された。「僕は中島さんのようにはなれません。自分らしく、やります」。自分とは切り離そうとしたが、5月に20歳になったばかりの青年に対する周囲の期待は重圧に変わった。

 開幕から約3カ月たち6人が遊撃を守った。現状ではレギュラーとは言えず、日替わりで出番を待つ。試合開始時点で62打数7安打、打数の約半分を占める27三振。打撃不振が持ち味の守備にも影響が出始め、6月23日のオリックス戦ではゴロをトンネル。引き分けに終わったが、人目をはばからず、西武ドームの階段で涙をこぼした。

 試合前の練習中、永江を「松井稼頭央2世」と評したことのある渡辺監督から「1軍の1打席を軽く見るな。2軍で打ちたいと思っている選手はいっぱいいるんだぞ」と厳しい言葉を掛けられた。背筋がスッと伸びた。安部、田辺両打撃コーチとフォームを改造。ノーステップ打法に変え、腕で軽くさばくイメージでバットを振った。

 力強く握り締めたバットは「栗山モデル」。昨年、先輩から譲り受けたのがきっかけで相棒に決めた。その1本は、今も寮の自室に大事に保管している。「打たしてください、って拝んでるんです」と笑うが、栗山のように安打を量産できる日を夢見る。栗山によれば「もともとは稼頭央さんのタイプをアレンジしたもの」と言う。中島裕之、松井稼頭央…。誇り高き獅子の遊撃手へ、永江恭平が脈々とその系譜を引き継ぐ。【久保賢吾】

 ◆永江恭平(ながえ・きょうへい)1993年(平5)5月7日、佐賀県出身。長崎海星から11年ドラフト4位で西武に入団。高校時代は遊撃手兼投手で、3年夏の甲子園では149キロを計測。高校通算27本塁打。昨季は7月15日のオリックス戦で1軍デビューし、27試合に出場。オフにはヤクルト宮本との自主トレで心身を鍛えた。174センチ、79キロ。右投げ左打ち。