<ヤクルト6-7中日>◇29日◇神宮

 ラスト神宮はドラマチックに締めた。今季限りで退任する中日高木守道監督(72)のラスト神宮は4時間超えの大熱戦。最後まで「攻めの采配」を貫き、延長10回にヤクルトを振り切った。神宮での同一カード3連勝は02年以来11年ぶりで、今季7勝5敗として年間勝ち越しも6年ぶり。「現役時代からいい思い出がない」と話していた監督が有終を飾り、3位広島と1・5ゲーム差に迫った。

 「最後だからね。お別れしないと」。ベンチを出た高木監督は、三塁側のファンに歩み寄り、帽子を取って手を振った。「ナイスだ守道!」「いいぞ守道!」「来年も見たいよ!」。いつもは厳しいヤジを飛ばす竜党が、いつになく優しかった。監督はクラブハウスに歩きながら何度も立ち止まり、内野席に4回、外野席にも2回頭を下げた。今季限りで退任する指揮官のラスト神宮采配。10回、4時間24分の大激闘で勝利をもぎ取った。「よう勝ったよ」。穏やかに、感慨深げに笑った。

 攻めの采配がズバズバ当たった。1点を追う7回1死満塁。カウント3-0となった森野に出したのは「打て」のサインだ。「もう真っすぐしか投げれん」。右翼フェンス直撃の逆転打が飛び出した。森野は前日から8打席無安打。1球待てのサインが出てもおかしくないが、監督は「同点じゃ苦しくなるだけ」と一気の逆転を狙った。森野の気迫にかけ、最高の結果が生まれた。

 田島、マドリガルが失点して8回に同点とされ、森野の1発で再び勝ち越しても9回岩瀬が打たれてまた同点にされた。だが攻めの姿勢は不変だった。10回、先頭大島がヒットで出ると藤井の初球に盗塁のサイン。大島が間一髪二塁を陥れ、無死二塁の好機をつくった。こちらも本来なら藤井に送らせるのがセオリー。だが監督は「バントなんて考えん。勝負をかけた」と大島を走らせた。このギャンブルが見事成功した。その後大島が三進。監督が「気持ちが乗ってるし何とかしてくれると思った」という井端の内野ゴロで、激闘に終止符を打つ7点目が入った。

 見事な有終だった。試合前から「現役時代からここではいい思い出がないなあ」とこぼしていた。だが采配ズバリで、チームは02年以来11年ぶりとなる神宮での同一カード3連勝フィニッシュ。神宮では6年ぶりとなる年間勝ち越しも決めた。「ファンが最後に贈ってくれたんやない?」。最後まで厳しくも温かかった東都の竜党に感謝した。これで3位広島に1・5ゲーム差。今日30日からはラスト東京ドーム、首位巨人戦に最高の弾みがついた。【松井清員】