<西武6-5ロッテ>◇29日◇西武ドーム

 4位西武がサヨナラ勝ちし、クライマックスシリーズ(CS)進出に望みをつないだ。延長10回、途中出場の熊代聖人外野手(24)が自身初のサヨナラ打となる適時打を放った。試合中に第1子となる長男誕生の報告を受けて奮起し、2位ロッテとの直接対決でゲーム差を3に縮めた。勝った3位ソフトバンクとの2ゲーム差は変わらないが、3ゲーム差に3チームがひしめくCS争いは最後までもつれそうだ。

 なりたてほやほやの新米パパは怒りに燃えていた。同点で迎えた10回2死一、二塁。直前に中村が敬遠され、熊代は「正直なめんなよと思いました」。遠く離れた妻子を思い、打席では熱い心を静めた。力まず、ロッテ抑えの益田からしぶとく右前に運んだ。プロ初のサヨナラ打に「久々に興奮しすぎました」とヘルメットを高々と放り投げて、喜びを爆発させた。

 お立ち台では、まさかの出産報告だ。「私事ですが、試合中、広報の方から連絡があって、第1子が誕生しました!

 パパになって初めていい仕事ができたなと思います」。今季最多観衆を集めた西武ドームからは祝福の大歓声。試合後に知ったスタッフ、チームメートもビックリで、渡辺監督は「代打を出さなくてよかったよ」と笑ってヒーローをたたえた。

 試合中、妻も闘っていた。朝5時に真弓夫人(23)から陣痛が始まった連絡を受けた。初産を控えた夫人に「おれは野球を頑張るから、出産を頑張ってくれ」と激励した。試合は午後2時に開始。午後4時に、2616グラムの男の子が誕生した。広報から耳打ちされて連絡を受け「試合に集中しよう」と気持ちを入れ直した。7回の代走から途中出場し、ジュニア誕生から約2時間半後、運命的なサヨナラ打が生まれた。

 真弓夫人は今治西高のクラスメートで、熱烈な阪神ファンの両親から「真弓明信」の名字をとって名付けられた。熊代は「子どもの名前は2つ考えてるんで、直接会って顔を見てから決めようと思ってます。会うまで写真は見せないでと言ってあります。これから愛媛に帰ります」。試合翌日の休日も利用して、里帰りを決めた。

 2位ロッテをたたき、3ゲーム差。3位ソフトバンクには2ゲーム差。残り7試合。逆転CSに必要なものと聞かれて「僕だと思います」と笑って言った。逃げ切りムードが一転、9回2死から無安打で追いつかれて延長へ。本来なら回ってくるはずのない一打サヨナラの舞台だった。ドラマでも描けないような最高のシナリオを演じた“奇跡の男”が、負ければ後がない崖っぷちのチームを救った。【柴田猛夫】

 ▼西武は15日ロッテ戦、24日楽天戦、25日楽天戦に次いで今月4度目のサヨナラ勝ち。西武にとって月間4度のサヨナラ勝ちは、西鉄時代の61年4月、西武での97年9月に次いで16年ぶり3度目の球団最多タイ。