ゴジラが今の巨人を担う若きスターと対峙(たいじ)した。巨人松井秀喜臨時コーチ(39)が宮崎キャンプの2日、全体練習後の特打で坂本勇人内野手(25)を相手に打撃投手を務めた。初日に続く“連投”で111球の熱投。後輩も柵越え15発で応えてくれた。坂本の高い打撃技術を認め、エールを送った。

 2人だけの濃密な時間だった。松井コーチと坂本。巨人で栄光を築いた男と、これからの巨人を担う男。打撃投手と打者という空間で初めて対峙した。豪華な対戦を知らせる場内アナウンスが球場内に流れると、ファンからどよめきが起きた。

 松井コーチはWBCの日本代表ユニホームをイメージさせる短パン、半袖姿で次々と投げ込んだ。前日1日に亀井に95球を投げ込んだ影響からか、制球は少し荒れ気味。インハイにのけぞるような球を投げ「ゴメン!」という声がグラウンドに響いた。だが坂本も力のこもったスイングで応えた。内角をえぐられた次の球を左翼スタンドに力強く運んだ。最後の111球目もレフトへ15本目の放物線を描き、締めた。革手袋を外して握手してきた後輩の手を力強く握り返した。「いい感じで振っているよ」と言葉をかけた。

 臨時コーチを務めるまで坂本の打撃はニュースなどの映像で見る程度だった。投手目線から感じた印象を口にした。「打撃練習だけじゃ分からない。でも少なくとも打撃練習では穴が見つからなかった。どこでも芯に当てていた。彼がどう思ったか分からないが、僕の目からはうまいなと思った」。球界屈指のインコース打ちの技術を持つ長所にも納得した。「うまいですね。パッとうまく腕を畳んで打っている」と認めた。

 2人の空間は原監督が演出した。キャンプ前、坂本は松井コーチが打撃投手を務めるプランに、緊張感もあり遠慮気味だった。だが指揮官はそれでも坂本を指名した。昨季、若き看板選手は大スランプに陥った。偉大な先輩が投げる白球を打ち返し、何かを感じてほしかった。「松井が投げてくれて、勇人が打った。(坂本の中に)新しいページが加わればいい。僕は(松井が)こういう人間、というのは持っているが、坂本には、また違った形での印象がある。でも共通するものは、(松井が)偉大な選手だということ。(特打が)いいものとして、残ると思います」と目を細めた。

 坂本も濃厚な時間を過ごし、感謝した。「投げてもらって、ありがたい気持ちでやらせてもらった。1球1球、いい打撃、いいスイングをしようと思ってやった。いい時間だった。シーズンでも、しっかりといいスイングができるようにしたい」と糧にすることを誓った。

 松井コーチにとっても有意義な時間だった。「もともと力のある選手。自分のプレーをすれば、自然とチームの力になる。僕は何も心配していない」。現在の巨人をけん引する後輩を頼もしく感じた。【広重竜太郎】

 ◆巨人で過去のスター道直接伝授

 巨人へFA移籍してきた大物に監督自らがノックを行い、打球で心を通じ合わせた。長嶋監督は、97年清原に「よぉし、いい元気だ」とげきを飛ばしながら55分間で268本、00年江藤には44分間で223本のノック。原監督は07年小笠原に「ヘイ、ガッツ」「男だ、男」と76本のノックを行い、終了後には「ボールに向かう姿勢が素晴らしい」と絶賛した。また、現役時代に守備でもスタンドを沸かせた長嶋監督は01年、3年目の二岡に「魅せる守備」を伝授。ファンを喜ばせる守備を意識させるのが狙いで約40分間、213本のノックを浴びせた。