<阪神6-5DeNA>◇10日◇甲子園

 いやなことぜ~んぶサヨナラだ!

 2点リードをひっくり返され逆に3点ビハインドを追いついたシーソーゲーム。途端に走者が進まない拙攻に苦しみ、9回も無死二塁からバント失敗…。つぶれそうなチャンスも、2死一、二塁から阪神上本博紀内野手(27)が右翼線に外野手を超えるプロ初のサヨナラ打で救った。勝率を5割に戻し、さあ甲子園で巨人に開幕カードの雪辱だ。

 思い切りバットのヘッドを利かせると、打球は右翼ポール際に伸びていく。梶谷が精いっぱいダイビングした先に白球がはずむ。その瞬間、甲子園に地鳴りのような大歓声が起こった。2014年、初のサヨナラだ。借金完済だ。同点の9回2死一、二塁。殊勲打を放ったのは選手会長の上本だった。両手を広げると、大和や新井良が抱きついてくる。水もかけられた。苦しい戦いを制した者だけの儀式だ。

 上本

 おととい、ちょっと(結果が)まったくだったので、がっついてじゃないですけど食らいついていく。ボールを振ってもしょうがない気持ちでいきました。記憶にありました…。

 普段は冷静な男が燃えに燃えた。8日DeNA戦は9回2死二、三塁。1打サヨナラの場面でフルカウントから真ん中スライダーを見逃して最後の打者になっていた。バットを振ることの大切さが身に染みていた。だから、ソーサが投げた外角低め直球を迷わずに振り抜いた。

 開幕直前の「決断」が快打を呼んだ。今年は久保田スラッガー社製のバットを新調。最高の感覚を求めて、オープン戦期間中もチームメートのバットを試した。結論が出た。3月に入ってから5グラム増量。さらに、バットの重心を先端寄りにする工夫を凝らした。同社担当者は「普通、キャンプ中なら替えますが、オープン戦中に替えるのは珍しい。先端が重いから数値に表れない感覚があったはずです」と説明する。上本も「最初は重たい感じがありました」と漏らしたという。本番ギリギリまで妥協しない。理想の相棒をなじませ、土壇場での好結果につなげた。

 ヘッドの重いバットは使いこなせば遠くに飛ぶ。狙い通りにDeNAをあざ笑う飛距離が、プロ初のサヨナラ打になった。「中学生のとき…、学生のときに何回か…」と首をかしげる、記憶もおぼろげな一撃だった。西岡が肋骨(ろっこつ)骨折などで離脱。大きな穴を埋めるように上本が躍動する。打率3割9分5厘はリーグ4位タイ。開幕前に結婚し、守るべき人もできた。巨人戦を前に若武者が大仕事を果たした。【酒井俊作】<上本博紀(うえもと・ひろき)アラカルト>

 ◆生まれ

 1986年(昭61)7月4日、広島県。

 ◆球歴

 広陵で甲子園に4季連続出場、2年春に優勝。早大では4年時に主将。史上27人目の通算100安打を達成。08年ドラフト3位で阪神入団。

 ◆度重なるケガ

 12年オープン戦の守備中に左肘内側の副靱帯(じんたい)を痛め、開幕1軍ならず。同年7月に1軍合流。13年はオープン戦で好調ながら2月26日のWBC日本代表の強化試合で守備中に伊藤隼と衝突し左足首の前距腓靱帯を負傷。8月下旬に1軍昇格。

 ◆サイズ

 173センチ、63キロ。右投げ右打ち。