<オリックス11-0楽天>◇25日◇京セラドーム大阪

 奪三振王は譲らない。オリックス金子千尋投手(30)が楽天4回戦で二塁も踏ませず、1安打完封勝利を飾った。今季2勝はいずれも完封で、奪三振は前回4日西武戦と同じ自己最多タイの「14K」。終盤に6連続三振を奪うなど球威は最後まで衰えず、チームを単独首位に導いた。

 三振に執着しない男だからこそ、生まれた記録だった。金子は最後の打者に対しても、3球勝負を選んだ。内角への直球が捕手のグラブに収まる。パ・リーグ史上初となる、1安打14三振の完封劇だ。「こういう展開だと集中力が切れてしまう。いつも以上に力を出した」。18安打11得点という自軍の猛攻さえも圧倒するエースの快投だった。

 究極の理想として、「27球での完封」を掲げる。その理想の前には、三振の必要性もなくなる。「三振を狙う場面が来ないほうがいいし、言い方はおかしいが、楽に勝ちたい」と言う。実現すれば、これほど効率的な投球はない。自軍の攻撃にもリズムを与え、試合を完全にコントロールするだろう。だから追い込めば、勝負する。14奪三振のうち、3球三振は6個もあった。「バッターには勝負にくると思わせたほうが(打撃が)窮屈になるかもしれない」。

 昨季は200奪三振でタイトルに輝き、今季はすでに57奪三振で両リーグトップ。奪三振率13・15は98年石井一(ヤクルト)がマークした11・05の日本記録を大きく上回り、昨季並みの投球回(223回1/3)をクリアすれば、シーズン326Kに届く。最大効率の理想は、逆に三振数を増やす要因になった。

 5回にはプロ通算1000奪三振を記録した。花束をもらったが、「三振に執着心がない。いいコメントはできない」と苦笑した。ヤンキースに移籍した田中は気合を前面に押し出すが、金子はまさに対照的。5回2死からこの日ただ1本の安打を許しても、表情は変わらなかった。

 そんな右腕が球界を代表する存在になりつつある。今季2勝はいずれも完封。ソフトバンクを抜き、単独首位に押し上げた。「チームが勝つことが大事。いい緊張感でやれているのはいいこと」。三振の話題で見せなかった笑みを浮かべた。【田口真一郎】

 ◆金子千尋(かねこ・ちひろ)1983年(昭58)11月8日、新潟県三条市生まれ。小学校時代に家族で長野市に移住。長野商では2年春に甲子園出場。当時は非凡な打撃センスで注目を集める。トヨタ自動車に進み、04年ドラフト自由枠でオリックス入団。10年に17勝で最多勝。昨季は奪三振で田中(楽天)を上回りリーグトップ。両リーグで唯一、沢村賞の選考基準全7項目をクリアした。180センチ、77キロ。右投げ左打ち。今季推定年俸2億円。家族は夫人と1男。

 ▼金子が14三振を奪って13年8月21日ソフトバンク戦に次いで自身2度目の1安打完封勝ち。ノーヒットノーランを含め1安打以下で完投した試合の最多奪三振は68年9月14日外木場(広島)01年5月24日野口(中日)の16個で、14奪三振以上は7人目。パ・リーグでは56年7月7日稲尾(西鉄=1安打で1失点完投)の13奪三振を抜いて最多となった。金子は4日西武戦でも14奪三振を記録したばかり。14奪三振以上を月間2度は57年7月梶本(阪急=2試合とも延長戦)80年9月木田(日本ハム)11年8月ダルビッシュ(日本ハム)に次いで4人目だ。

 ▼通算1000奪三振=金子(オリックス)

 25日の楽天4回戦(京セラドーム)の5回、枡田から見逃し三振を奪って達成。プロ野球136人目。初奪三振は06年4月12日の西武3回戦(スカイマーク)で炭谷から。