<楽天4-0ロッテ>◇15日◇コボスタ宮城

 トンネルを抜けた。楽天則本昂大投手(23)がロッテ打線を、わずか1安打に抑える無四球完封で10勝目を手にした。6月29日以来の白星で、球団初の新人から2年連続2ケタ勝利を果たした。この1カ月半、先発で5試合連続勝ち星がなく、中継ぎに回ってもサヨナラ負け。苦悩が続いたが、先発に戻った最初の登板で、もう少しで完全試合という快投だった。チームの自力CS進出も一晩で復活だ。

 もう、我慢できなかった。お立ち台。則本は「本当にチームには申し訳なかった。こうして、ここに立てて良かった」と言って目が赤くなった。ファンへのメッセージを求められても、続きが出てこない。5秒、10秒…。歓声の中、やっと口を開く。「今日みたいな投球が毎日できるわけじゃない。9回、上がった時は泣きそうだったけど…。良かったです!」。こらえたはずの涙があふれ出た。

 マウンドでは、鉄仮面だった。序盤は浮いた球もあったが「ストライク先行ができた」。中継ぎを経験し、腕を振ることを再認識。目いっぱい振った球でファウルを稼いだ。9三振は全て空振り。気づけば安打も得点も「0」が並ぶ。7回1死、ロッテ加藤に初球カーブを打たれ大記録は逃したが「早く打たれた方が楽という気持ちもあった」。切り替えての完封だった。

 この1カ月半は「すごく悩んだ」という。ブルペンでは、佐藤投手コーチに真後ろに立たれ、リリースの瞬間にホーム方向へ体を押された。春季キャンプ序盤のような光景で、基本に立ち返った。それでも結果は出ない。降板後、言葉少なに球場を去る日々だった。

 1本の電話が変化をくれた。3日前。大学時代の野球部仲間から「見ているヤツは見てるから」という励まし。翌日、アップをしながら重かった口を開いた。

 則本

 たかだか1カ月半、勝てないぐらいで一喜一憂しちゃいけない。僕の周りには野球がしたくても、できない人がいる。大学の友人はケガを繰り返して、最近、やっと普通にプレーできるようになったんです。(ヤンキース)田中さんも(楽天の)釜田もそう。

 リハビリを続ける先輩、後輩にも励まされた。「そのことが分かったということが良かったです」。悩んだ分、視野が広がった。

 ベンチ裏では、笑顔だった。報道陣を見ると「泣いたことは書かないでくださいよ~」。続けて「やっと冗談が言えた」。次も、勝って笑う。【古川真弥】

 ▼則本が1安打で今季6度目の完封勝ち。許した走者は安打を打たれた加藤だけで、楽天投手の「準完全試合」は09年8月5日藤原がオリックス戦で記録して以来2人目だ。シーズン6度の完封勝ちは11年の田中(楽天)とダルビッシュ(日本ハム)以来になるが、則本はそのうち4度が与四死球0。シーズン4度の無四死球完封勝ちは82年江川(巨人)以来、32年ぶり。