「憎らしいほど強い」といわれた北の湖に、勝ち越している力士は少ない。20戦(不戦勝含む)以上した中では、2人だけだ。ともに「輪湖時代」を築いた横綱輪島(23勝21敗)と、現高砂親方の大関朝潮(13勝7敗)。同親方は「あの人を倒すのが一番の目標だった」と振り返る。

 現役を引退した高砂親方が理事長との酒席になると、第三者から「北の湖に勝ち越した」という話に何度もなった。恐縮している同親方に、理事長は「そんなこと気にしなくていい」と声を掛けてくれたという。

 弟子の朝青龍が、不祥事を起こした時もそうだった。師匠としての立場を尊重してもらった。「『オレが言うべき時は、言ってあげる』と、支えてくれた。北の湖さんがいなかったら、青龍はもっと早くやめさせられていたはずだ。力士のことを第一に考える人だった。懐が深かった」。

 多分野の人と交流があり、話題も豊富だった。「テレビ番組の『なんでも鑑定団』好きで、見ながら『この絵は高い』なんて言ってた」。ずっと背中を追いかけてきた理事長が、急にいなくなった喪失感は簡単に消えない。だが、高砂親方は親方衆を代表するように力を込めた。「しっかり継承していくことが、オレらの責任だ」。【木村有三】