「釣り、初心者です、何からやったらいいでしょう?」。船釣りならば、そこで推されるのは、おそらくシロギスか、アジ。でも、両方ともやってみたい。ありますよ、最初にシロギスを釣って、その後でアジを狙うリレー便。根岸「つり孝」(湯川輝雄船長)なら、明日にでもできます。東京湾のシロギスとアジ、最高に面白いよ!

 「はい、ちょっとサオ、あげといてください」

 これ、何だか分かりますか? 実際にあった話で、船長がこう船内マイクで案内する。釣りをしていた初心者が、手に握っていたサオを頭上にかざすように持ち上げた。これは、日本語として正しい。でも、釣り船では「釣りをやめて、落とした仕掛けを全部あげて、次のポイントに移動します」という意味が含まれた言葉なのだ。

 「つり孝」の湯川船長もこのフレーズは多用するので、特に初心者の方々、注意してください。

 さて、シロギスとアジのリレー便だ。東京湾を代表する「江戸前2魚種」と評しても、言いすぎにはならない。例年だとアジは11月ごろには、幕を閉じる…はずなのだが、今シーズンは潮温がなかなか下がらず、アジが深場に潜っていかない。いったい、東京湾のアジパラダイスは、どこまで続くのだろうか?

 そして、シロギスだ。大活況のアジの陰に隠れているが、本来的には、この時期のシロギスは冬の海の冷たさに耐えるためにおいしい脂をまとう。胴回りのでっぷりした大きいシロギスとファイトできる時期なのだ。俳句の世界では、シロギスの季語は夏が定番だが、シロギス釣りでは定番の季節などはないに等しい。

 何しろ2017年を飾る初釣り。3日に出撃した。湯川船長にリレー便の発祥を聞いた。

 湯川船長 ウチは釣り船の看板を掲げて、もう80年。客は常連ばっかり、歩いてきたり、自転車だったり。この近所の人が多いんだよ。で、毎回同じ釣りじゃ飽きちまうだろ。だから、2つの魚種をまとめてやっちゃおう、ってなったの。

 今回は、海洋環境専門家の木村尚(たかし)さんと釣り糸を垂れた。それ以外は5人。全員、顔なじみの常連だ。いつもの正月、いつものメンバーだ。かといって、ビギナーや初心者が入りにくい雰囲気はない。和気あいあいとしている。温厚な湯川船長の人柄もあって、最初に釣りをするなら、こんな釣り宿で、という典型例といえそうだ。

 つり孝は、堀割川の左岸にある。川沿いに船が停泊していて、海に出るには橋の下をくぐっていかなければいけない。最も低い八幡橋でケタ下2・1メートルしかない。大丈夫、船長室がスーっと沈んでいきますから。橋を越えたら、また元の船長室に戻るというテクノロジーだ。スゴい!

 釣りは、シロギスから始まる。東京湾のど真ん中に南北に11キロの台地が海中に没している-中ノ瀬。海の生物の生態を潜って調べて、環境再生の方策を練るプロジェクトなどにも携わる木村さんは「中ノ瀬は魚が集まる条件がそろっているように見える。けれど、東京湾では浅瀬や干潟が少なくなってきているから、魚は行き場所がなくて中ノ瀬に逃げるしかないという仮説も成り立つ」と話した。

 中ノ瀬の水深15~20メートルで、胴付き2本バリ仕掛け(オモリ20号)を着底させて「緩くして→張って」を繰り返す。するとプルルンとキスが食らいついてくる。ときおり、動きを止めるなどすると効果的だ。

 釣り人は、ターゲット以外の魚を「外道(げどう)」などと呼んだりするが、あまりに無慈悲な表現のため、最近では「ゲスト」などとすることも多い。シロギス釣りのゲストで今の時期最も多いのはギンギラギンに輝くイシモチだ。これもおいしいので、大事に持ち帰ってほしい。

 キス釣りから最後4時間はアジ釣りにバトンを渡す。場所は、船付き場の堀割川の河口のすぐ近く。水深も10~14メートル。

 30号のビシにアミコマセを入れて、全長1・7~2メートルの2本バリ仕掛け。潮温が安定していないからか、魚の回遊する層(タナと呼ぶ)が安定しない。ビシを底につけて、ハリス分をあげるとだいたい反応があるが、この日は底から3メートルでもガツンと食ってきた。まだ潮温は高めのようだ。

 木村さんはシロギス20匹、アジも20匹と「ポツポツ当たりがあって楽しめました。東京湾で釣りをするのは、やっぱり楽しい」と満足そうな表情。船釣りデビューしたい人、つり孝のリレー便は、よーく覚えておいてくださいね。

 ▼船 根岸「つり孝」【電話】045・751・3671。シロギス&アジのリレー便は午前7時30分集合。エサ、氷付きで7500円。高校生は5500円、中学生4500円、小学生は3500円。要予約。